霊感御曹司と結婚する方法
「お義姉さん、申し訳ないが、今日みたいなやり方は僕は受け入れない。彼女の前で僕は失礼な態度は取れないし、それが目的でこの場を設けたというのなら僕はこれで失礼する」

「十分失礼じゃないの。……あ、ちょっと、どこ行くのよ」

「大便ですよ」

「だいべん? だ、……」

 義姉は俺の言った単語の意味もわからず大声で口走っていたが、すぐ気がついて慌てていた。

「クソくらえだな」

 苦手な女だが、からかいがいはある。

 俺は奥に控えている給仕に自分の名刺を渡し、それなりの額の心付けをした。それで、自分の分だけ急いでくれるように頼んできた。

 俺は戻り、再び座って義姉の方を見据えた。

「何も喋らなければ済むなんて、稚拙な考えもやめてちょうだいね」

 しかし俺は一言も話すことなく、次々に運ばれる料理を片付けていった。

 義姉の質問には、食事で口が塞がっている事を理由に無視を貫く。

 俺の前で、義姉が一人でしゃべって、令嬢が受け答えするという記者会見のようなショーが繰り広げられた。

 令嬢が自分の出身大学の同窓であることや、また彼女が在学中のミスコンの準優勝者であること、自分の時は人気女子アナの何とかをさしおいて、優勝者だったことのさり気ない義姉のアピールが入り、この上なく不快な会話だった。

 ただ、思うのは、義姉は昔から押しも癖も強い人間ではあったのだが、今日見る雰囲気は一層酷くなっている。どことなく焦りを感じるし、目はギラギラして、何かに取り憑かれているような雰囲気だ。

 兄と義姉の関係は結婚当初から悪いのだが、一層悪くなっているに違いない。

 そうこうしているうちに自分の分の食事は終わった。義姉は話に夢中で、食事が運ばれてくるペースにまるで気づいていない様子だった。

「お義姉さん、僕はこれで失礼します」

「もう食べ終わったの? ちょっと勝手に決めないでくれる?」

「その言葉、そっくりお返ししますよ」

「彼女を送って差し上げるはずだったわよね?」

「僕の車、オービスに狙われやすいんですよ。ご令嬢に乗って頂くには下品で失礼かもしれない」

「オービス? 何よそれ」

「ご存知無いんですか? 帰って兄に聞いてみてください」

「何よそれ、ちょっとあなた」

 去り際に令嬢のほうに視線をおくったが、彼女はこちらを向くことはなく、無表情で空を見つめ、義姉と俺とのいざこざには、何も動じていない様子だった。

(この女……)

 彼女も言われるがまま、連れて来られただけかもしれない。そうであれば渡りに船だ。俺は彼女に遠慮することなく、その場を立ち去った。
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