霊感御曹司と結婚する方法
 海の上を夜風が穏やかに通り過ぎていく。夜空は街灯が明るくて星は全く見えない。

 夏の盛りはとうに過ぎてしまって、夜は肌寒さを感じるようになっていた。

 半袖のシャツを羽織っただけの彼女は、夜風を受けて軽く身震いをした。肩を抱き寄せてやりたいところだが、今の関係ではそうはいかない。

「帰ろう。少し冷えてきた。今日は気乗りしないところを悪かったな」

 そう言って、ひとり車のほうに足を進めた。

「村岡さん」

 歩き始めたところで呼び止められて、俺は後ろの彼女の方を振り向いた。

「私、昨日帰って来られるって聞いていたので、村岡さんから連絡が来るかなって待っていたんです」

「ああ、先約があったんだ。遠城さんと飲んでいて午前をまわってしまった。深夜でも掛ければ良かったか?」

「それでも良かったです。……昨日帰って来ることも私だけ知りませんでしたし」

 それは、それだけを連絡することが、照れくさかったからだ。

「用事があったか?」

「ないです」

 彼女は、ぷいとそっぽを向いた。

 横顔から見える、下まつげにはさっき堪えた涙が少し残っていた。

 さっきまでの彼女のつれない態度は、元気がないというのもあるかもしれないが、拗ねていたのかと思った。

「君に、自覚があるかどうかわからないが、そういう態度をとられると、こちらは勘違いしてしまう」

 そう言って、パーソナルスペースを割って彼女の目の前に立った。彼女は少し驚いた表情で、こちらを向いた。じっと俺の顔を見つめ、その瞳は、みるみると潤んできている。

 化粧けのない彼女の素肌は色が白く滑らかで、顔にはまだ、少女のようなあどけなさを残している。それがかえって、エロい。

「……本当は、俺に会えなくて、寂しかったんじゃないかと」

 俺は彼女の目尻に残る涙を指で軽く拭った。その手を彼女の頬に添えて、顔を近づけて一呼吸おいた。彼女が嫌がらないことを確認して、唇を重ねた。

 しばらくそのままにしても嫌がらないので、少し濃厚気味にしかけてみる。彼女の唇を割って軽く舌を差し入れると、彼女もそれに応じて軽く俺の舌を吸った。

 もう少しと思う手前でやめておいた。

 そのまま抱きしめたい衝動をこらえて、彼女から離れた。

「これで勘弁しろよ」

 彼女は呆然と立ち尽くしていたが、俺が手を引いてやると我にかえって俺の後ろを付いてきた。
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