霊感御曹司と結婚する方法
「村岡くん、どこいくのよ?」

「遠城さん、一緒に来てもらえますか?」

 考えもなしだったが、その方がいいような気がした。吉田を事務所に残して、俺は遠城さんを連れて、蒼子が向かったホテルまで車を走らせた。

 何かに引っ掛かりを感じたから、あの時、彼女に行き先を聞いた。

 間違いなく、蒼子が義姉のターゲットにされている。

「蒼子ちゃんの命が危ないって、どういうこと?」

 助手席の遠城さんが高い声を出して驚いて言った。遠城さんには手短に、先日の義姉とのやり取りを話した。

「蒼子ちゃんを、あなたから引き離すために命まで奪うというの? 馬鹿げてるでしょう。嫌がらせくらいはするでしょうけど……」

「義姉がいくらバカでも、そんなわけないと思いますが」

 それでも、不安とは違うザラザラするような確かなイメージはあった。義姉の考えはもちろん、これから何が起こるか、具体的なことは何も予知はできない。

「嫌がらせがエスカレートしたら、そうなるかもしれない。義姉はイカれたところがあるから……」

「今のあなたがそんな感じだと、そうだとしても、まだ間に合っているってことよね」

「そうだと思います」

 目的のホテルは駅とつながる複合施設になっていて、二階が正面玄関だ。エントランスから入ると正面にアトリウムが広がって、一階がカフェテリアになっている。

 蒼子がどこかにいるはずだ。

 だが、蒼子を視認する前に、義姉に気が付いた。見えたというか、分かった。それで思うより勝手に体が動いた。

「ここ、二階よっ」

 遠城さんが、男の甲高い声で叫んだ。

 俺には義姉が何をしようとしているのか、既にわかっていた。

 アトリウムの吹き抜けの柵から飛び降りて、着地までは良かった。着地の衝撃で脚全体が砕けたような激しい痛みに気を失いかけたが、それは無さそうだと一瞬の時間の中で判断できた。

 問題はその後だ。着地目標としたテーブルが安定の良いものではなく、思わぬ方向に傾いて崩れた。それで、俺はおかしな体勢で倒れ込む形になって上半身を強打した。

 床に倒れ込んだまま動けない。

 義姉にぶつかったつもりはなかったが、彼女も横たわっているのか、俺の視界からは彼女の脚だけが見えた。

「蒼子ちゃん、怪我はないのね? よかった……」

 頭の上の方で遠城さんの声がして、蒼子が無事であることはわかった。遠城さんを連れてきて正解だった。

 俺は、痛みで動けないのはあったが、意識はずっとあった。

 その中で思ったのは、兄と吉田のことだった。

 今回の起業で多大なる貢献をしてもらった二人に、どういう顔をされるだろうかと。
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