霊感御曹司と結婚する方法
「結婚するとかどうですか?」
「はい?」
「いや、現実問題、いい選択肢だと思いますよ。出会いは、お見合いとか、マッチングとかでいくらでもある。そういう場で、今のあなたなら、引く手あまただと思うけど」
「嫌です」
「どうして?」
「では、あなたはいきなり結婚できますか? 見ず知らずの私と」
「普通にできると思いますよ? あなたみたいな魅力的な女性であれば」
「お上手ですね。さっきから。人を根拠なく褒めるの。初対面なのに。私は、……そういうノリが羨ましいです」
「僕の場合、根拠は自分の感が全てだな」
「自信家なんですね」
「そんなことないですよ」
「苦手なものがないみたいです。私からみたら」
「まあ、自分の感が外れたことはないな。いいことも悪いことも」
「そうなんですか」
「僕の言葉のとおり受け取ってくれたらいいのに。あなたは美人だし、一目で結婚したいと思うくらい魅力的だ」
ここで私は思わず鼻で笑ってしまった。
「そんなこと言われたら裏があるって普通は考えます。詐欺とか」
彼はしばらく考える様子を見せてから言った。
「僕は今まで外国人の女性としかお付き合いしたことがないんだけど、彼女たちは実に褒められ慣れていたよ。褒めたらとても喜ぶし、それをしなかったらあっさりと他に移っていく。そういうところで鍛えられただけだな。気を付けていたことは、嘘は言わないようにしていただけかな」
「私には全然、隙が無い人に見えます。あなたは」
「隙?」
「そうです。悪い意味で言っていません。あなたは、自分にも相手にも同じくらい気を遣っているから、あなたと話しをした外国人の女性たちは、あなたに気を許したんだと思いますよ」
「それは、僕を褒めてくれているのかな?」
彼はにっこりと微笑んだ。それにつられて私も自然と自分の顔が綻ぶのがわかった。
「……そうです」
私もそのまま微笑んでみた。
思えば人とこんなふうに話をしたのはいつぶりのことだろう。亡くなる一年くらい前くらいから、向井さんと話すときはいつも緊張感があったし、職場では自分の身に起きたトラブルが明るみになってから、周りはよそよそしくなった。
声もその人物を評価する一つの要因だと思うが、彼の声質は張りがあってよく通る。口調は速くもゆっくりでもなく彼の話すテンポは心地よく耳に入ってくる。
「あまりのめない方ですか?」
彼は私のあまり減らないグラスを見て言った。
「いいえ、……どちらかといえば、私はアルコールには強い方だと思います。でも、ここ最近、頭痛が酷くて控えています」
少し嘘だ。酷いのは頭痛ではなくて、不眠だ。二日に一日は眠れていない。でも不眠なんて初対面の人に言ったらふつう引かれる。
「それは心配ですね。それでも今日はお酒を飲む店に来たということですか?」
「そうですね……。もうここには来ないから。今日は特別です」
「それほど元彼さんとの思い出が詰まったお店ですか? ここは」
「え……?」
思い出は詰まっていない。後悔とターニングポイントがあるだけだ。答えに困っていたら彼は少し申し訳なさそうにいった。
「困らせるために聞いたのではなかった。聞き流してください」
彼の気遣いが素直に嬉しかった。だから私も本当の事を言った。
「ここには思い出はないです。来たのは、自分の気持ちに区切りをつけたかったからです。……でも、なかなか簡単にはいかなさそうです」
「僕が邪魔をしたかもしれないな」
「はい?」
「いや、現実問題、いい選択肢だと思いますよ。出会いは、お見合いとか、マッチングとかでいくらでもある。そういう場で、今のあなたなら、引く手あまただと思うけど」
「嫌です」
「どうして?」
「では、あなたはいきなり結婚できますか? 見ず知らずの私と」
「普通にできると思いますよ? あなたみたいな魅力的な女性であれば」
「お上手ですね。さっきから。人を根拠なく褒めるの。初対面なのに。私は、……そういうノリが羨ましいです」
「僕の場合、根拠は自分の感が全てだな」
「自信家なんですね」
「そんなことないですよ」
「苦手なものがないみたいです。私からみたら」
「まあ、自分の感が外れたことはないな。いいことも悪いことも」
「そうなんですか」
「僕の言葉のとおり受け取ってくれたらいいのに。あなたは美人だし、一目で結婚したいと思うくらい魅力的だ」
ここで私は思わず鼻で笑ってしまった。
「そんなこと言われたら裏があるって普通は考えます。詐欺とか」
彼はしばらく考える様子を見せてから言った。
「僕は今まで外国人の女性としかお付き合いしたことがないんだけど、彼女たちは実に褒められ慣れていたよ。褒めたらとても喜ぶし、それをしなかったらあっさりと他に移っていく。そういうところで鍛えられただけだな。気を付けていたことは、嘘は言わないようにしていただけかな」
「私には全然、隙が無い人に見えます。あなたは」
「隙?」
「そうです。悪い意味で言っていません。あなたは、自分にも相手にも同じくらい気を遣っているから、あなたと話しをした外国人の女性たちは、あなたに気を許したんだと思いますよ」
「それは、僕を褒めてくれているのかな?」
彼はにっこりと微笑んだ。それにつられて私も自然と自分の顔が綻ぶのがわかった。
「……そうです」
私もそのまま微笑んでみた。
思えば人とこんなふうに話をしたのはいつぶりのことだろう。亡くなる一年くらい前くらいから、向井さんと話すときはいつも緊張感があったし、職場では自分の身に起きたトラブルが明るみになってから、周りはよそよそしくなった。
声もその人物を評価する一つの要因だと思うが、彼の声質は張りがあってよく通る。口調は速くもゆっくりでもなく彼の話すテンポは心地よく耳に入ってくる。
「あまりのめない方ですか?」
彼は私のあまり減らないグラスを見て言った。
「いいえ、……どちらかといえば、私はアルコールには強い方だと思います。でも、ここ最近、頭痛が酷くて控えています」
少し嘘だ。酷いのは頭痛ではなくて、不眠だ。二日に一日は眠れていない。でも不眠なんて初対面の人に言ったらふつう引かれる。
「それは心配ですね。それでも今日はお酒を飲む店に来たということですか?」
「そうですね……。もうここには来ないから。今日は特別です」
「それほど元彼さんとの思い出が詰まったお店ですか? ここは」
「え……?」
思い出は詰まっていない。後悔とターニングポイントがあるだけだ。答えに困っていたら彼は少し申し訳なさそうにいった。
「困らせるために聞いたのではなかった。聞き流してください」
彼の気遣いが素直に嬉しかった。だから私も本当の事を言った。
「ここには思い出はないです。来たのは、自分の気持ちに区切りをつけたかったからです。……でも、なかなか簡単にはいかなさそうです」
「僕が邪魔をしたかもしれないな」