霊感御曹司と結婚する方法
「あなたと専務の関係は良好ですか?」

「僕は良好と思っているし、兄を大いに尊敬もしています」

「随分、歳が離れておられますね」

「兄とは母が違います。それに母は四十で僕を産んだ」

「なるほど。専務とは親戚みたいな感じですか?」

「そこまでよそよそしくはないです」

「あまり本音で話すことはないとか?」

「どういう意味です?」

「例えば、ご夫婦の仲の相談ごとを聞くとかは?」

「義姉がイカれているから、兄が夫婦関係の事で悩んでいたとでも?」

「いやいや、他のご家族はどういう風にお二人を見ていらしたのかを知りたいんです」

「はっきり言って義姉は、昔から好き放題やっているように見えたし、兄は義姉を野放し状態だ。僕は、兄に対してそこが気にくわないとは思っています。ただ、強く言えない理由があるのも理解している。いわゆる政略結婚でしたから」

「ああ……、なるほど」

 刑事はしばらく黙って何かを考えている様子で、俺はそれが気にはなったが、自分が一番確認したかった事の方に話を向けた。

「義姉の拳銃はどこで?」

「出処はまだ不明ですが、単なる彼女の私物と思います」

「義姉は、その日、蒼子を殺すつもりだったんでしょうか?」

「それはないと思っています。拳銃は日頃から持ち歩いとったんでしょうね。護身用とかそういう用途に。それも調べていますがね」

 刑事は思い立ったように言った。

「心配なら、ちょっと聞いてみますか? あなた神経強そうだし、大丈夫そうだ」

「何を?」

「事件当日の一歌と蒼子さんの会話内容です。一部始終録音されていました。何があったか聴けばわかります」

 刑事はスマホを取り出して、音声ファイルを再生した。義姉の持ち物から押収したレコーダーのデータをコピーしたものらしい。

「……なかなか、凄いやりとりだと思います」

 俺は、二人の会話の内容に引っ掛かりを感じつつも、蒼子に感心していた。

「そうですよ。どこまで蒼子さんの本心か知りませんが、冷静に一歌と会話して、目的を聞き出して、最後は相手の言いなりにならないように、うまく挑発していますよね」

「……怒らせた相手が悪すぎたな。身内ながら」

「あなたも身体を張って正解だったと思います。あれで一歌は、逃げも隠れもできない状態になりましたからね」

 刑事は帰っていった。

 義姉と蒼子の会話のやり取りを聞いて、二人とも言っていることはデタラメであると思うが、蒼子に起きた金銭トラブルがどういうものだったか何となく理解した。想像はしていたが、たぶん彼女は向井から黙って金を託されたのだろう。

 俺が身体を張ってよかったかはわからない。大ごとになって、蒼子をまた傷つけることになったかもしれない。そして、彼女のことだから、責任を感じて故郷に帰ると言い出すに決まっている。
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