霊感御曹司と結婚する方法
バッドエンド・ルート
私が村岡さんに会えたのは、彼が入院してから一週間以上経ってのことだった。
彼の怪我の具合は吉田さんから詳しく聞けていたし、心配ないという話だったが、実際に会ってみたら思うより酷い印象だった。
「この度は、すみませんでした」
病室に入るなり、私は深々と頭を下げた。
なんか、前にもこういうことがあったなあと頭を下げながら思い出した。
「……どういうつもりだ?」
村岡さんは急に体を起こそうとしたが、痛みでそれがかなわずもがいていた。私は近寄るわけにもいかず、離れたところから心配するしかなかった。彼は、何とか自力で上体を起こして言った。
「何で君が謝る?」
「先日、専務が私のところに謝罪に来られました。グリーンの事務所に直接お越し下さって」
「吉田から聞いた」
「ですが、私が一方的に謝罪を受けるようなことではないはずです。それなのに……」
「義姉が逮捕されただろう? 君は、俺の実家の家庭問題に巻き込まれたんだ。謝るのはうちの方で当然だ。しかも、義姉に本気で拳銃で打たれかけたんだ」
「でも、実弾は入っていなかったみたいです」
「偶然だ。慣れない義姉がヘマをしただけだ。そうじゃなかったら今頃は……。銃口なんか向けられて、君の心には消えない傷を残してしまったことには違いない」
「あの時、何が起こったかよくわかりませんでした。……それより、私は、あまりに軽率でした。一歌さんが怒るのも当然です」
「警察から聞いた。義姉に喧嘩を売ったんだろう? でも、最初に仕掛けたのは義姉の方か。どちらにしても、あの義姉を相手に……な」
村岡さんは笑ったが、傷に響くのか顔をまたゆがめた。
「軽率といえば俺の方が上をいくだろう。まあ、ホテルで起こした騒ぎの損害賠償がエムテイにいくことはないし、父の弁護士が穏便に済ませてくれるだろう」
「本当に、すみませんでした……。私が大ごとにしたんです」
「それは違う。兄も父もそれは思わない。立ってないで、座れよ。そこらに椅子があるだろう?」
私は言われた通り、丸椅子を持ってきてベッド脇に座った。二人とも何も言わない時間がしばらく過ぎた。
私は、どうやって退職のことを切り出そうかと考えていた。
先に口を開いたのは村岡さんだった。
「君に……、俺の実家の事で嘘をついていたことを謝らないといけない」
「……エムテイの創業一族の方だったんですね。それを知って、なんか色々腑に落ちることがありました」
「騙すとかそんなつもりじゃなかったことはわかって欲しい」
「それは思っていません」
「偶然、君と知り合って、その後、君をスカウトした時、本当のことを言うと、君が俺のもとに来てくれなくなると思った」
「それは、そうです。だって、おそれ多いし、無理だったと思います」
「今は、どうだ?」
「村岡さんのこと、もう、知ってしまった後ですからね……。今は、感謝しかないです」
それは、心からそう思っている。
彼の怪我の具合は吉田さんから詳しく聞けていたし、心配ないという話だったが、実際に会ってみたら思うより酷い印象だった。
「この度は、すみませんでした」
病室に入るなり、私は深々と頭を下げた。
なんか、前にもこういうことがあったなあと頭を下げながら思い出した。
「……どういうつもりだ?」
村岡さんは急に体を起こそうとしたが、痛みでそれがかなわずもがいていた。私は近寄るわけにもいかず、離れたところから心配するしかなかった。彼は、何とか自力で上体を起こして言った。
「何で君が謝る?」
「先日、専務が私のところに謝罪に来られました。グリーンの事務所に直接お越し下さって」
「吉田から聞いた」
「ですが、私が一方的に謝罪を受けるようなことではないはずです。それなのに……」
「義姉が逮捕されただろう? 君は、俺の実家の家庭問題に巻き込まれたんだ。謝るのはうちの方で当然だ。しかも、義姉に本気で拳銃で打たれかけたんだ」
「でも、実弾は入っていなかったみたいです」
「偶然だ。慣れない義姉がヘマをしただけだ。そうじゃなかったら今頃は……。銃口なんか向けられて、君の心には消えない傷を残してしまったことには違いない」
「あの時、何が起こったかよくわかりませんでした。……それより、私は、あまりに軽率でした。一歌さんが怒るのも当然です」
「警察から聞いた。義姉に喧嘩を売ったんだろう? でも、最初に仕掛けたのは義姉の方か。どちらにしても、あの義姉を相手に……な」
村岡さんは笑ったが、傷に響くのか顔をまたゆがめた。
「軽率といえば俺の方が上をいくだろう。まあ、ホテルで起こした騒ぎの損害賠償がエムテイにいくことはないし、父の弁護士が穏便に済ませてくれるだろう」
「本当に、すみませんでした……。私が大ごとにしたんです」
「それは違う。兄も父もそれは思わない。立ってないで、座れよ。そこらに椅子があるだろう?」
私は言われた通り、丸椅子を持ってきてベッド脇に座った。二人とも何も言わない時間がしばらく過ぎた。
私は、どうやって退職のことを切り出そうかと考えていた。
先に口を開いたのは村岡さんだった。
「君に……、俺の実家の事で嘘をついていたことを謝らないといけない」
「……エムテイの創業一族の方だったんですね。それを知って、なんか色々腑に落ちることがありました」
「騙すとかそんなつもりじゃなかったことはわかって欲しい」
「それは思っていません」
「偶然、君と知り合って、その後、君をスカウトした時、本当のことを言うと、君が俺のもとに来てくれなくなると思った」
「それは、そうです。だって、おそれ多いし、無理だったと思います」
「今は、どうだ?」
「村岡さんのこと、もう、知ってしまった後ですからね……。今は、感謝しかないです」
それは、心からそう思っている。