霊感御曹司と結婚する方法
この流れで、言えるかもしれないと思った。グリーンを退職したいと。
そう言おうと、口を開きかけたと同時に、
「蒼子」
この時、初めて彼に下の名前で呼ばれて、私は一瞬怯んだ。
顔を上げると、彼がこちらをまっすぐ見つめていた。私は金縛りにあったような錯覚がした。
「俺は、君と初めて会ったあの日、突然店からいなくなってしまった君に、どうしても、もう一度会いたかった」
村岡さんは、言葉を探しているのか黙ってしまった。しばらくして、また口を開いた。
「恥をしのんで言うが、俺は、ああいう家だから自分には恋愛や結婚の自由はないと信じて今まで過ごしてきた。
だから上辺だけでいいという相手としか付き合ったことがなかったし、上辺だけでいいという相手と結婚するつもりでいた。
歳の離れた兄のこともある。兄が結婚したのは俺が十二歳の時だった。当時兄には恋人がいたように記憶しているが、結婚した相手はあの義姉だった。
君と知り合っていなかったら、兄の手前、周りの言う通りの結婚をしていたかもしれないが、君に恋をしてしまった以上、そんな気には当然なれなくなった。
俺の結婚相手は義姉が率先して探していたし、今回のことは、俺が義姉の反感を買って暴走させてしまった結果だ。
君を命の危険にさらしておいて勝手なことを言っているかもしれないが、俺は君を失いたくない」
彼がまっすぐ私の目を見て言った。
「好きだ。ずっとこのまま俺の側にいてほしい」
私は、正直言って、今、この場で彼から告白されるなんて思っていなかった。
戸惑って何も言えないでいる私に、彼がさらに問いかける。
「蒼子、君の気持ちが知りたい」
「……どうしたらいいかわからないです」
「何がだ?」
「ここ数日考えていました。自分が引き起こしたことと、これからどうするのが一番いいことなのかを」
結論は決めていたはずだ。さっきも言いかけた。だけど、言えなくなっている。頭が混乱して何が言いたいのかわからなくなっていた。
「……私が起こしたことで、村岡さんが死んでいたかもしれない」
「二階から飛び降りたくらいでは死なない」
「取り返しのつかない大怪我になっていたかもしれない」
「大丈夫だっただろう? 俺は、こんなことで君のことを諦めることはできない」
「専務だって大変なことになったんですよ。村岡さんの周りの人は、私のことをどう思うと思いますか?」
「俺は、君の気持ちが知りたいと言った」
「……そんなこと言われても困ります。本当にどうしたらいいかわからないんです」
私はここに来る前、泣くまいと決めていた。だけど無理だった。
「泣くなよ。もっと側に来いよ。俺、動けないから」
私は立ち上がって村岡さんの側に立った。
彼が私の手をとって優しく語りかける。
「そうだな。一番肝心なことを言えていない。君が、無事で良かった。それが俺にとって何よりの事だ」
彼が私の手を指を絡めて握った。
「義姉が酷いことを言ったんだよな?」
「……それは、大丈夫ですよ。気にしていません」
「怖い思いをさせた」
「それも大丈夫です。……村岡さんが来てくれたから。……でも、こんなこと、絶対にやめてほしい」
私は彼の手を無意識に強く握りしめていた。
「それは、君にも言えるな。困ったことがあれば先に相談はしてほしかったな」
「……そうですよね。……すみません」
私は握った手を緩めて離そうとした。その瞬間、彼は私の腕をつかんで、自らのほうに引き寄せた。
「謝らなくていい」
「……でも」
「今すぐ返事がほしいわけじゃない」
そう言うと、私の腕から手を離した。私はその瞬間、一抹の寂しさを感じて、はっとした。
感じたのは違和感かもしれない。ボタンの掛け違いのように、彼との会話が全然しっくりきていない。
死んでいたかもしれないのは自分もそうだ。だけど、助かったことに安堵も恐怖もない。それは彼がものすごくピンポイントなタイミングで身体を張ってくれたからなのだろうか。
そういうことを彼に伝えたいのに、上手く伝える言葉が見つからなくて、何も言えなかった。彼の問いかけに対して私は黙って頷くだけだった。
そう言おうと、口を開きかけたと同時に、
「蒼子」
この時、初めて彼に下の名前で呼ばれて、私は一瞬怯んだ。
顔を上げると、彼がこちらをまっすぐ見つめていた。私は金縛りにあったような錯覚がした。
「俺は、君と初めて会ったあの日、突然店からいなくなってしまった君に、どうしても、もう一度会いたかった」
村岡さんは、言葉を探しているのか黙ってしまった。しばらくして、また口を開いた。
「恥をしのんで言うが、俺は、ああいう家だから自分には恋愛や結婚の自由はないと信じて今まで過ごしてきた。
だから上辺だけでいいという相手としか付き合ったことがなかったし、上辺だけでいいという相手と結婚するつもりでいた。
歳の離れた兄のこともある。兄が結婚したのは俺が十二歳の時だった。当時兄には恋人がいたように記憶しているが、結婚した相手はあの義姉だった。
君と知り合っていなかったら、兄の手前、周りの言う通りの結婚をしていたかもしれないが、君に恋をしてしまった以上、そんな気には当然なれなくなった。
俺の結婚相手は義姉が率先して探していたし、今回のことは、俺が義姉の反感を買って暴走させてしまった結果だ。
君を命の危険にさらしておいて勝手なことを言っているかもしれないが、俺は君を失いたくない」
彼がまっすぐ私の目を見て言った。
「好きだ。ずっとこのまま俺の側にいてほしい」
私は、正直言って、今、この場で彼から告白されるなんて思っていなかった。
戸惑って何も言えないでいる私に、彼がさらに問いかける。
「蒼子、君の気持ちが知りたい」
「……どうしたらいいかわからないです」
「何がだ?」
「ここ数日考えていました。自分が引き起こしたことと、これからどうするのが一番いいことなのかを」
結論は決めていたはずだ。さっきも言いかけた。だけど、言えなくなっている。頭が混乱して何が言いたいのかわからなくなっていた。
「……私が起こしたことで、村岡さんが死んでいたかもしれない」
「二階から飛び降りたくらいでは死なない」
「取り返しのつかない大怪我になっていたかもしれない」
「大丈夫だっただろう? 俺は、こんなことで君のことを諦めることはできない」
「専務だって大変なことになったんですよ。村岡さんの周りの人は、私のことをどう思うと思いますか?」
「俺は、君の気持ちが知りたいと言った」
「……そんなこと言われても困ります。本当にどうしたらいいかわからないんです」
私はここに来る前、泣くまいと決めていた。だけど無理だった。
「泣くなよ。もっと側に来いよ。俺、動けないから」
私は立ち上がって村岡さんの側に立った。
彼が私の手をとって優しく語りかける。
「そうだな。一番肝心なことを言えていない。君が、無事で良かった。それが俺にとって何よりの事だ」
彼が私の手を指を絡めて握った。
「義姉が酷いことを言ったんだよな?」
「……それは、大丈夫ですよ。気にしていません」
「怖い思いをさせた」
「それも大丈夫です。……村岡さんが来てくれたから。……でも、こんなこと、絶対にやめてほしい」
私は彼の手を無意識に強く握りしめていた。
「それは、君にも言えるな。困ったことがあれば先に相談はしてほしかったな」
「……そうですよね。……すみません」
私は握った手を緩めて離そうとした。その瞬間、彼は私の腕をつかんで、自らのほうに引き寄せた。
「謝らなくていい」
「……でも」
「今すぐ返事がほしいわけじゃない」
そう言うと、私の腕から手を離した。私はその瞬間、一抹の寂しさを感じて、はっとした。
感じたのは違和感かもしれない。ボタンの掛け違いのように、彼との会話が全然しっくりきていない。
死んでいたかもしれないのは自分もそうだ。だけど、助かったことに安堵も恐怖もない。それは彼がものすごくピンポイントなタイミングで身体を張ってくれたからなのだろうか。
そういうことを彼に伝えたいのに、上手く伝える言葉が見つからなくて、何も言えなかった。彼の問いかけに対して私は黙って頷くだけだった。