霊感御曹司と結婚する方法
 俺は、エムテイ本社の受付に、とある人物が退社する時に待っていてもらうよう頼んでおいた。そして、連絡を受けると、すぐロビーに向かった。

 受付のカウンターの横に、すらっと背筋の伸びた細身の女性が立っていた。遠目で見ても、確かに誰もの目を引く正統派の美人だ。

「松島沙耶さん。僕のことを覚えていますか?」

「もちろんです」

「先だっては、随分あなたに失礼をしてしまった。僕は、あなたがエムテイを今日退職すると聞いてここに来た」

「何か御用でしょうか?」

「僕はあなたがエムテイに在籍されていたことすらも知らなかった。僕に関係することなのに、それの意味することも知らされていなくて、結果、あなたとあなたの時間を蔑ろにしてしまった。全てのことを僕からお詫びしたい。今から少し話できませんか?」

「急ぎますから、ここでお願いします。迎えがきているんです」

 俺は、立ち話で済ませると言って、ロビーの隅の方に彼女を誘導した。

「兄夫婦があんなことになってしまった。手短に済ませるなら、そのことに絞って話がしたい。僕も、この通り長く立っていたくないし」

 怪我がまだ癒えない脚を見せていった。

「村岡専務ご夫妻はお気の毒なことでした」

「兄が最後に会った人物があなただと、関係筋から聞きました」

「刑事さんにはお話ししました。専務に頼まれて、私が預かっていた一歌さんの持ち物を、専務に託しただけです」

「僕も刑事から聞いた。実はあなたにはエムテイに対して、あなたの自殺した本当のお父様の恨みがあったとかなかったとか、そういうことを」

 俺は、彼女の瞳が一瞬揺れるのを見逃さなかった。そして、そのまま彼女をまっすぐ見据えて言った。

「そうは言っても、兄は自殺だし、義姉は突然死だ。しかし、それは偶然すぎるし、何らかのメッセージだと思っている」

 彼女は表情一つ変えない。

「あなたは僕と同類な人間だろう。いや、それ以上か。僕にはその境地に到れるかわからない。死にたくなるほど人を恨めばそういう力が得られるのだろうか?」

「……何が、おっしゃりたいかわかりません」

「そうだな、僕も具体的なことは、何も思い浮かばない。兄夫婦が死んだことに、あなたのことが透けて見えた気がしただけだ。もし、僕の親族が、過去にあなたや、あなたのご家族を追い詰めるような何かがあったとするなら、僕は知らないふりをすることはできない」

「まったくの見当はずれです」

「……そうか。それは失礼だった」

 彼女は無言のまま俺に背中を向けて、立ち去ろうとした。
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