霊感御曹司と結婚する方法
迷いは消えて
彼のお兄さんの自殺は私のせいではない。
だけど、きっかけをつくってしまったことは間違いない。あんなことになってしまった後では、私は村岡さんの側にはいられない。
村岡さんから連絡があった。かれこれ、ひと月以上音沙汰無しだった。
彼が自宅に戻って、一緒に住んでもいいかということだった。
「いつですか?」
「一週間後あたり。でも、明日でもいい」
「なんですか、それ」
私は笑って言った。
二人が一緒になることはない。
彼の思いも、私と同じだと思った。根拠は無いが、彼の声を聞いてそう思った。
村岡さんが実家からワインを持ちだしてきたので、二人で買出しに出て、それに合う料理を作ることにした。
「料理は得意そうなんだな」
ローストビーフと揚げ物をいくつか作っただけで、そう言われた。
「買ってきたお惣菜と組み合わせているだけですよ。でも、ちゃんと料理をするのは久々かもしれません。ひとりの時はこういうのは作らないです」
事件のことは当然話題にしなかった。お兄さんの話題は、このワインのことだった。
「兄の自宅を片付けた時に、何本かもらってきた。有名なカルフォルニアの高級ワインだ。誰と飲むつもりだったのだろうな。他に形見になるようなものはたいしてなかった。兄らしいけどな」
「少し寂しい気もしますね」
「この時計は兄から贈られたものだから、これがそうなるかな」
「その時計、そうだったんですね」
初めて会ったときから気になっていた、捕鯨委員会の腕時計の出自がそうだと知って、少し切なくなった。
「初めてじゃないか。二人で酒飲むの。今までは車で出かけていたからな」
「初めて、じゃないですよ。いつだか、二人で飲みました」
「そうだったな。初めて会ったときか。それ以来なのか」
食事とお酒が少しすすんだ頃に村岡さんが言った。
「吉田、結婚するって聞いたか?」
「え……、知りません」
でも、このところ、彼がよく、オフィスの部屋を出た先の廊下で、電話をしているところを見かけていた。雰囲気から相手は何となく恋人だと思っていたから、いい人がいるんだとは思っていた。
「俺のことがあったから、式は延期になっている。まだ決定ではないと思うが、たぶん年が明けて、仕事が落ち着いてからになるだろうな。年度末あたりだろうな」
「きっと、あっという間ですよね」
「俺が入院をして早々に聞いた話だから、随分延期になってしまって申し訳なく思っている」
「かえって仲が深まったりしますよ」
「がっかりしないのか?」
「どういう意味ですか?」
私は少し笑って言った。
「……いや、吉田はいいやつだし、将来も有望だし。彼は、君のこと、満更でもなさそうだったけどな」
(はい?)
私は、彼が聞き捨てならないことを言ったと思った。そして、この部屋で、吉田さんに押し倒されたことを思い出して、一瞬だけ固まったが、何とか平常心を保った。
「……吉田さん、優しいですからね。男性からはそんなふうに見えるんですか?」
「遠城さんもそう言っていたぞ」
答えに困ることを言ってくる。見ると村岡さんは、ひとつ目のボトルを既に空にしていた。それは、作品番号一番と呼ばれる高級ワインだったはずだ。
「吉田さんと結婚する人はきっと幸せになるだろうと思うから羨ましいです」
「がっかりしているんだな」
「そういうことにしておきたいんですね? ……でも村岡さんこそ、がっかりしているんじゃないですか? 実は寂しいとか」
「寂しい……? そうかもな。ずっとあいつに頼りっぱなしだったしな。学生時代から。これからはそうはいかないからな」
私には、彼がシラフのうちに、言っておきたいことがあった。
だけど、きっかけをつくってしまったことは間違いない。あんなことになってしまった後では、私は村岡さんの側にはいられない。
村岡さんから連絡があった。かれこれ、ひと月以上音沙汰無しだった。
彼が自宅に戻って、一緒に住んでもいいかということだった。
「いつですか?」
「一週間後あたり。でも、明日でもいい」
「なんですか、それ」
私は笑って言った。
二人が一緒になることはない。
彼の思いも、私と同じだと思った。根拠は無いが、彼の声を聞いてそう思った。
村岡さんが実家からワインを持ちだしてきたので、二人で買出しに出て、それに合う料理を作ることにした。
「料理は得意そうなんだな」
ローストビーフと揚げ物をいくつか作っただけで、そう言われた。
「買ってきたお惣菜と組み合わせているだけですよ。でも、ちゃんと料理をするのは久々かもしれません。ひとりの時はこういうのは作らないです」
事件のことは当然話題にしなかった。お兄さんの話題は、このワインのことだった。
「兄の自宅を片付けた時に、何本かもらってきた。有名なカルフォルニアの高級ワインだ。誰と飲むつもりだったのだろうな。他に形見になるようなものはたいしてなかった。兄らしいけどな」
「少し寂しい気もしますね」
「この時計は兄から贈られたものだから、これがそうなるかな」
「その時計、そうだったんですね」
初めて会ったときから気になっていた、捕鯨委員会の腕時計の出自がそうだと知って、少し切なくなった。
「初めてじゃないか。二人で酒飲むの。今までは車で出かけていたからな」
「初めて、じゃないですよ。いつだか、二人で飲みました」
「そうだったな。初めて会ったときか。それ以来なのか」
食事とお酒が少しすすんだ頃に村岡さんが言った。
「吉田、結婚するって聞いたか?」
「え……、知りません」
でも、このところ、彼がよく、オフィスの部屋を出た先の廊下で、電話をしているところを見かけていた。雰囲気から相手は何となく恋人だと思っていたから、いい人がいるんだとは思っていた。
「俺のことがあったから、式は延期になっている。まだ決定ではないと思うが、たぶん年が明けて、仕事が落ち着いてからになるだろうな。年度末あたりだろうな」
「きっと、あっという間ですよね」
「俺が入院をして早々に聞いた話だから、随分延期になってしまって申し訳なく思っている」
「かえって仲が深まったりしますよ」
「がっかりしないのか?」
「どういう意味ですか?」
私は少し笑って言った。
「……いや、吉田はいいやつだし、将来も有望だし。彼は、君のこと、満更でもなさそうだったけどな」
(はい?)
私は、彼が聞き捨てならないことを言ったと思った。そして、この部屋で、吉田さんに押し倒されたことを思い出して、一瞬だけ固まったが、何とか平常心を保った。
「……吉田さん、優しいですからね。男性からはそんなふうに見えるんですか?」
「遠城さんもそう言っていたぞ」
答えに困ることを言ってくる。見ると村岡さんは、ひとつ目のボトルを既に空にしていた。それは、作品番号一番と呼ばれる高級ワインだったはずだ。
「吉田さんと結婚する人はきっと幸せになるだろうと思うから羨ましいです」
「がっかりしているんだな」
「そういうことにしておきたいんですね? ……でも村岡さんこそ、がっかりしているんじゃないですか? 実は寂しいとか」
「寂しい……? そうかもな。ずっとあいつに頼りっぱなしだったしな。学生時代から。これからはそうはいかないからな」
私には、彼がシラフのうちに、言っておきたいことがあった。