霊感御曹司と結婚する方法
 村岡さんと一緒に暮らすことになったとはいえ、彼はしょっちゅう実家に帰るし、どこかに泊まって帰ってこない日も度々あった。

 私に気をつかってくれてのことだとは思う。

 私は、彼には、自分の気持ちを伝えて、お付き合いはできないことを、はっきり言った。それを伝えた時、彼はわかったとしか言わなかったが、彼も同じ考えだったと思う。

 ここに住まわせてもらうのも、グリーンの仕事が一区切りつくまでともお願いした。私のその、勝手と思えるお願いも、彼は快く許してくれた。

 たぶん、彼は根っからのお人好しだ。自分の世界を築いて、他人を妬んだりすることにも無縁だろう。仕事では、そんなことはないが、その分、私事では、どこかツメが甘くて、抜けていて……。

 そうじゃなかったら、傷心の吉田さんを、これまた傷心中の、片思いをしている女の元に、単身で送り込んだりはしないだろう。私はそれで、とても困ったことになったというのに……。

 私はそういう彼を好きになって、既に愛おしいとさえ思うけど、彼とは、こういうめぐり合わせだったのだから、しかたがない。

 今日は、何日か実家に行っていた村岡さんが戻ってくる日だった。荷物が大量にあるから、駐車場まで取りに来てほしいと電話で言われて出向いた。紙袋やら、ダンボール箱やらが、たくさん車の後部座席に積まれていた。

「母に、有限で君と暮らしているって言ったら、色々持たせてくれた」

「えっ?」

「安心しろ。母には一緒に暮らしているのは、どこの誰とも言っていない」

「はあ」

「さらには、相手とは一線は越えていないし、超えるつもりもないことを説明してある。そういうことにも理解のある母親だ」

「そんな言い方したんですか?」

「……さすがに、もう少し遠回しにいった」

 村岡さんは笑って言った。

 部屋に入ったら、彼が荷物を適当に開けておいてくれといったので、私は順番に中身を取り出していった。主に食料品ばかりで、世界各地のワインや桐箱入りの日本酒、見たこともない食べ物の缶詰、高そうな果物が入っていた。その中に避妊具も忍ばせてあって、それを見つけたことは黙っておいた。

(理解あるお母さんねえ……)

 これは、どこぞの下宿中の大学生の息子あてかな? と笑ってしまった。息子への愛が伝わってはくる。でも、彼の年齢を考えると、それは愛情を通り越して、溺愛と言ってもいいかもしれない。

 母親の息子を思う気持ちに合わせて、私も応えておいた。あなたの大事な息子さんの人生を、狂わせるようなことはいたしませんよとテレパシーを送っておいた。
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