霊感御曹司と結婚する方法
 彼はしばらく黙ってから続けた。

「……この話は、あとは、兄が知っていたかな。だから、兄は、父の再婚相手の母のことはすんなり受け入れたんだ。父が、そういう訳ありの母を好きになって、口説き落としたことを、見直したようなことを言っていたこともあったかな」

 お兄さんの話になって、村岡さんは、急に、視線を落として悲しそうな顔をした。私が彼の顔をじっと見つめていることに気がついて、彼は言った。

「君は、俺が泣くことを期待しているだろう?」

「それはないですが、私がここにいないほうがいいですか?」

「君がここにいようがいまいが、関係ない。俺はあんまり泣けないんだ。そういう体質だ。子どもの頃からだ。人の気持ちに疎いんじゃないかと他人から言われたこともある」

「じゃあ、村岡さんが本当に悲しい時でも、周りにあまり心配してもらえなかったんじゃないですか?」

「今まで、気にしたことはなかったが、そうかもしれない」

「今はどうですか?」

「どういう意味だ?」

「私に慰めてほしいとかって思っていますか?」

 彼は不意をつかれたような表情を私に向けた。

「……そうしてほしいと言ったら?」

「友達としてなら」

 私は、結構、真面目に言った。

 だけど、彼は思わず……といった感じで、鼻で笑った。でも、すぐに真剣な顔をして横を向いて言った。

「……君は、俺にそんなことを思ったことは、一度もないだろう? 悲しいことを慰めてほしいなんて」

「私にはそういうのは無いです」

「……そうか?……本当に、か?」

「それは、私にも悲しいことはありましたけど、私は、この間、解決してもらいましたし。人事評価のことで……」

 彼はグラスを片手に、頬杖を付きながら、私の顔をじっと見つめてから言った。

「そうだな……。だったら、俺も別にいい」

 彼はグラスに残ったウイスキーを一気に飲んで空にしてから、ボソッとだが、ハッキリ言った。

「単にヤリたいがために、俺は、そんな古典的な理由付けはいらないしな」

 そう言って、彼はそっぽを向いた。その横顔は少し怒っている。

「あの……、私の言ったことが、気にさわったのなら、謝ります」

「別に、そういうわけじゃない。気にもさわっていないし心配するな」

 しかし、明らかに怒っている。でも、言ってしまったことは仕方ないし、このことには、これ以上触れないことにした。

「……わかりました」

 このあとは、会話もしなかった。

 村岡さんは、またお酒を飲み始めたし、私は夕食の片付けを始めた。ここで過ごす、いつもと変わらない夜の時間だ。

 当然、別々に眠ったし、いつもと変わらない翌日を迎えた。
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