霊感御曹司と結婚する方法
離陸時は、かなり怖い。
恐怖で呼吸が浅くなって、上体を縮こまらせて、村岡さんに借りた防寒着の襟に首を潜り込ませるようにすると、村岡さんのコロンの香りがかすかにした。それで少し安心できたかもしれなかった。
恐る恐る下を覗くと、吉田さんが手をふっているのが見えた。横に座る村岡さんもそれにふりかえしていた。
空に上がると、間もなく日は沈み、景色は次第に夜景に変わっていった。目に映る景色は、始終息を飲むほど美しく、視界をキラキラと遷ろっていった。
ここから見える光の数だけ人の営みがあるんだなあと、私は、ごくありきたりなことを思った。
でも、こころの解像度が高ければ、この景色の中からいろんなものが認識できるかもしれない。見えなくても想像できるだろう。視野に映るこの景色には、尊い命の輝きだけでなく、恐ろしい人の闇もひっそりと内包している。
この数ヶ月で、私は私なりという程度だが、人生の経験値を上げた。
赤の他人の関係だというのに、知らないうちに大金を託されて、権利ある人にちゃんと返したのに、その人は顔を見せない上、事情も聞かないで、さらにお金をむしり取っていった。
知らない女に売られた喧嘩を買って、銃を向けられたこともあった。そのことで、苦しい関係の夫婦を悲しい結末へ突き落とす引き金を、私が引いてしまった。
三角関係のすえに、本当に人が死ぬ選択をするかもしれないという場面を、ほんの少しだけ理解したかもしれない経験もした。
強そうに見えたり、幸せそうに見えたりする裏側には、実は違うものがあったりするというだけのことかもしれないが、身をもって知った私は、モノを見る目の解像度を上げたかもしれない。
今の私は、この景色を眺めて、ただ美しいだけとは思わない。でも、その感性を手に入れて、何かの感想を正直に言ったら、ひねくれているとか冷めた目をしているとか苦労が多いんだねとか言われたりするのだろう。でも、それが不幸かといわれたらそうでもない。
でも、そう思う人は少数派なんだろうなとも思う。だって、嫌なものや怖いものには、マスキングをしてわからないようにしている世の中だし。
そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にか右手を村岡さんに握られていた。大きくて暖かな手だった。村岡さんは窓の外を眺めてそっぽを向いていたけれど、私は指を絡めてしっかりと握り返した。
(この人は、もっと色んなものが見えているんだろうな……。目を少しも逸らすことなく)
この人をひとりにしても大丈夫かなという心配は、実は私の中にひっそりとあった。
なんというか、この人には、突然天国から呼ばれてさっさと帰って行きそうな儚さがあると私は感じている。
今、それがとてもリアルに迫ってきて、急に怖くなった。それで握った彼の手をずっと離さなかった。
恐怖で呼吸が浅くなって、上体を縮こまらせて、村岡さんに借りた防寒着の襟に首を潜り込ませるようにすると、村岡さんのコロンの香りがかすかにした。それで少し安心できたかもしれなかった。
恐る恐る下を覗くと、吉田さんが手をふっているのが見えた。横に座る村岡さんもそれにふりかえしていた。
空に上がると、間もなく日は沈み、景色は次第に夜景に変わっていった。目に映る景色は、始終息を飲むほど美しく、視界をキラキラと遷ろっていった。
ここから見える光の数だけ人の営みがあるんだなあと、私は、ごくありきたりなことを思った。
でも、こころの解像度が高ければ、この景色の中からいろんなものが認識できるかもしれない。見えなくても想像できるだろう。視野に映るこの景色には、尊い命の輝きだけでなく、恐ろしい人の闇もひっそりと内包している。
この数ヶ月で、私は私なりという程度だが、人生の経験値を上げた。
赤の他人の関係だというのに、知らないうちに大金を託されて、権利ある人にちゃんと返したのに、その人は顔を見せない上、事情も聞かないで、さらにお金をむしり取っていった。
知らない女に売られた喧嘩を買って、銃を向けられたこともあった。そのことで、苦しい関係の夫婦を悲しい結末へ突き落とす引き金を、私が引いてしまった。
三角関係のすえに、本当に人が死ぬ選択をするかもしれないという場面を、ほんの少しだけ理解したかもしれない経験もした。
強そうに見えたり、幸せそうに見えたりする裏側には、実は違うものがあったりするというだけのことかもしれないが、身をもって知った私は、モノを見る目の解像度を上げたかもしれない。
今の私は、この景色を眺めて、ただ美しいだけとは思わない。でも、その感性を手に入れて、何かの感想を正直に言ったら、ひねくれているとか冷めた目をしているとか苦労が多いんだねとか言われたりするのだろう。でも、それが不幸かといわれたらそうでもない。
でも、そう思う人は少数派なんだろうなとも思う。だって、嫌なものや怖いものには、マスキングをしてわからないようにしている世の中だし。
そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にか右手を村岡さんに握られていた。大きくて暖かな手だった。村岡さんは窓の外を眺めてそっぽを向いていたけれど、私は指を絡めてしっかりと握り返した。
(この人は、もっと色んなものが見えているんだろうな……。目を少しも逸らすことなく)
この人をひとりにしても大丈夫かなという心配は、実は私の中にひっそりとあった。
なんというか、この人には、突然天国から呼ばれてさっさと帰って行きそうな儚さがあると私は感じている。
今、それがとてもリアルに迫ってきて、急に怖くなった。それで握った彼の手をずっと離さなかった。