霊感御曹司と結婚する方法
宿泊先のホテルに戻ると、ぐるぐると不安が頭の中を駆け巡った。
本当にお見合いだったらどうしよう。可能性はないとは言えないだろう。相手によっては、私はじゅうぶん妙齢の年齢だ。
でも、馬鹿げている。
その心配事は馬鹿げているけれど、今の弱った身体の上に乗っかった、それ以上に弱っている頭には負担が大きいストレスだった。案の定、その晩は一睡もできなかった。一睡もできなかったので、寝坊もすることなく、時間通りに約束の場所に出向いた。
そして、出向いた先にあったものは、これまた意表をつくものだった。
指示通りにホテルのフロントで会社名と自分の名前を伝えるとロビーで待つとある人物のもとに案内された。
待っていたのは、台風の夜に出会った男だった。
「先日はどうも」
びっくりしすぎて、挨拶も忘れてしまった。
「改めまして、村岡糾司と言います」
「か、神崎蒼子です」
茫然と立ち尽くす私に彼は椅子に座るように促した。
「この間帰ったあと、エムテイの人事本部長さんにあなたのことを問い合わせてみたんだ。退職後の就職先が決まっていないなら僕の会社に来てくれないだろうかと」
「事務なんて、募集をかけたら条件のいい人いくらでも来ると思いますけど……」
「僕は手っ取り早いのがいいんだ。もう面接も済んだし、身元や素性は人事本部長さんのお墨付きだし」
「面接って……」
この間、バーで二人ですっかり話し込んでしまったが、それを面接だというのである。
「歳の近い男に雇われるのは嫌かな?」
「年齢は個人情報ですけど……」
「失礼。僕が知っているのはエムテイ商会の社員さんだってことだけだ。個人的に知るのは今月で辞めるということくらいだ」
「とてもいいお話ですが、私には荷が重いです。会社の立ち上げメンバーなんて無理に決まっています。ご迷惑をかけると思います」
私はどう断ろうかと言葉を選んでいた。
「自分勝手なことを言わせていただくと、仕事についていけなくなって辞めたくなっても、ここは私にとってアウェーの土地なんです。やり直しも難しい。……手持ち資金だって無いんです。お恥ずかしい話ですが」
私は、会社を退職するきっかけとなったトラブルで多額の慰謝料を支払った。そのせいで、貯金をだいぶ減らしてしまった。嫌なことを思い出して顔を曇らす。
「ですから、このお話は……」
「神崎さん」
「はい」
「あなたが退職にいたった経緯は、僕はもちろん知らない。長く勤めたところを辞めるにいたったのは、それ相応の何かがあったと推察する。しかし、流れって大事だと思うし、今がそれを変える機会だと思いませんか?」
強引だけど話がうまい。この人は、どうしてこんな肩入れをしてくれるのだろうか。偶然出会っただけの私に……。
でも、理由を考えるのも億劫だった。知らない土地で生活を始めるなんて、今の私には無理だ。断るという結論は決まっている。
本当にお見合いだったらどうしよう。可能性はないとは言えないだろう。相手によっては、私はじゅうぶん妙齢の年齢だ。
でも、馬鹿げている。
その心配事は馬鹿げているけれど、今の弱った身体の上に乗っかった、それ以上に弱っている頭には負担が大きいストレスだった。案の定、その晩は一睡もできなかった。一睡もできなかったので、寝坊もすることなく、時間通りに約束の場所に出向いた。
そして、出向いた先にあったものは、これまた意表をつくものだった。
指示通りにホテルのフロントで会社名と自分の名前を伝えるとロビーで待つとある人物のもとに案内された。
待っていたのは、台風の夜に出会った男だった。
「先日はどうも」
びっくりしすぎて、挨拶も忘れてしまった。
「改めまして、村岡糾司と言います」
「か、神崎蒼子です」
茫然と立ち尽くす私に彼は椅子に座るように促した。
「この間帰ったあと、エムテイの人事本部長さんにあなたのことを問い合わせてみたんだ。退職後の就職先が決まっていないなら僕の会社に来てくれないだろうかと」
「事務なんて、募集をかけたら条件のいい人いくらでも来ると思いますけど……」
「僕は手っ取り早いのがいいんだ。もう面接も済んだし、身元や素性は人事本部長さんのお墨付きだし」
「面接って……」
この間、バーで二人ですっかり話し込んでしまったが、それを面接だというのである。
「歳の近い男に雇われるのは嫌かな?」
「年齢は個人情報ですけど……」
「失礼。僕が知っているのはエムテイ商会の社員さんだってことだけだ。個人的に知るのは今月で辞めるということくらいだ」
「とてもいいお話ですが、私には荷が重いです。会社の立ち上げメンバーなんて無理に決まっています。ご迷惑をかけると思います」
私はどう断ろうかと言葉を選んでいた。
「自分勝手なことを言わせていただくと、仕事についていけなくなって辞めたくなっても、ここは私にとってアウェーの土地なんです。やり直しも難しい。……手持ち資金だって無いんです。お恥ずかしい話ですが」
私は、会社を退職するきっかけとなったトラブルで多額の慰謝料を支払った。そのせいで、貯金をだいぶ減らしてしまった。嫌なことを思い出して顔を曇らす。
「ですから、このお話は……」
「神崎さん」
「はい」
「あなたが退職にいたった経緯は、僕はもちろん知らない。長く勤めたところを辞めるにいたったのは、それ相応の何かがあったと推察する。しかし、流れって大事だと思うし、今がそれを変える機会だと思いませんか?」
強引だけど話がうまい。この人は、どうしてこんな肩入れをしてくれるのだろうか。偶然出会っただけの私に……。
でも、理由を考えるのも億劫だった。知らない土地で生活を始めるなんて、今の私には無理だ。断るという結論は決まっている。