霊感御曹司と結婚する方法
 私は経験も数えるほどだし、慣れないし、何も身に着けない姿を彼に見せるのは、やっぱり恥ずかしかった。

「綺麗だ」

 スタンドライトの小さな明かりのもとで、彼の腕に抱かれながらそう言われた。

 私は、彼の腕の中でさっき彼が言ったことを思い出していた。

──君は、ほんとうに律儀だし、頑固だよな? でも、そういうところを好きになったからしかたない。

 彼はそう言ったが、それは違うと思う。

 彼が私に惹かれたのは、出会った時に、私が死にそうというかそっちよりにいたからだ。例えて言うなら、心霊写真で、ありえない風に手とかを肩にのせられている人を見つけて、その人が気になる、みたいなそういう感じだろう。

 彼と出会った時の自分に、彼を惹き寄せる何かがあったとするなら、それだと思う。それが彼にとって、私を魅力的に見せていたのかもしれない。

 だけど、今夜、一緒に連れて行ってもらった夜間飛行で、私にかけられたその呪いは完全に解けてしまった。

 でも、彼のほうは……?

 私が感じている、この世に執着なく呼ばれたらすぐに帰って行きそうな彼の儚さはどうなのか?

 死にそうにしている女に惹かれるなんて、やっぱり彼には十分その素質があるかもしれないと思う。

 今は、この不安を私からどうにか無くしてほしい。それとも、私が消すことができるのか? 彼から、今、このタイミングで。

「何を考えている?」

「今夜の夜間飛行のこと」

「そうか。俺は既に君のことしか頭にない」

 私は少し笑ってしまった。

「私も、村岡さんは私だけのものって思っていいですか?」

「……今くらい、名前で呼べよ」

 彼は私の問いかけには、いいともダメとも答えず、ただそう言った。

 それで、言われたとおり彼を名前で呼んだ。それで、いつもと違うスイッチが二人に入った。そこからは、二人ともただ黙って行為に没頭し始めると、二人だけの世界になった。
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