霊感御曹司と結婚する方法
「そうか……。まあ、少し座れよ。ついでだ。俺も君に話したいことがある。君に、まだ言えていないことがあるんだ」
村岡さんに促されて、二人で遊歩道のベンチに座った。
彼はそういうものの、しばらく黙っていた。何かを考えているように見えるし、首を傾げてうーんとうなったりして何かに迷っているようにも見える。彼が私の前で何かを言いにくそうにしているのはあまり見たことがない。しばらく横で黙って待っていたら、ようやく彼が口を開いた。
「俺には霊感があるんだ。……いわゆるな」
私は待った挙げ句、彼から出てきたことばに、実にこころの底から戸惑った。だけど、彼の横顔からうかがえる表情は、真剣そのものだ。だから、何も言わず彼の続きの言葉を待った。
「君と初めて出会った、あの季節外れの台風の夜。どこからか、声がしたんだ。男の声で。女に声をかけてやってくれという。それで無理をして、あの大嵐の中、あの店に出向いてみた。そうしたら君がいた」
私はあの日の彼の姿を思い出した。
そうだ。あの日、店に一人で入ってきた彼は、きれいな革靴を履いて、大雨のなかを出歩くような姿ではなくて不思議だった。
「ただ、声を聞いただけだ。その一度だけ。その意味が知りたくて君に興味をもった」
彼は私の顔を見て言った。
「信じるか?」
私は黙って頷いた。
「わかった。じゃあ、続きを話そう」
「待ってください。その声の主って……」
「向井という男だろう? 君の元彼の」
既に知られていたとは思っていたが、村岡さんの口から向井さんの名前が出るとやはりショックだ。
「向井さんのことも、知っていたんですね。……やっぱり」
「怒るなよ。だから言うのを迷ったんだ」
「別に怒っていないです。……少し驚いただけです」
彼は黙って微笑んだ。
「でも、向井さんは、村岡さんに何の用だったんでしょうか……? 彼は幽霊として呼びかけたんですよね?」
「さあな。でも、たぶん、彼は、君をあちらの世界に惹き込んでしまうと心配したんだろう。声が聞こえる俺に救いを求めたんじゃないかな」
ああ、やっぱりと思う。
自覚なく随分と病んでいたあの頃の自分を思い出していた。やっぱり村岡さんには、あの頃の私は死にそうにみえていたんだな、と。
「霊感があると、やっぱり幽霊が見えるのですか?」
「ちょっと違う。あくまで俺の場合だが、霊というか、死んで霊になった故人の記憶が認識できる」
私はそれを聞いて少し焦った。
「あの……、どの程度のことをご存じなのでしょう? その、彼のことや、私と彼との関係を……」
「病気持ちで、不倫の関係の」
「そういうことでなくて」
「心配するな。断片的な彼の記憶しか知らん。というか、霊的に知れるのはその程度のものだ。すぐ消えるし、その時は誰のものかはわからないんだ」
「例えばどんな……?」
「俺を疑っているのか? ……まあ、気持ちはわからんでもない。だから俺も言うかどうかを迷った。だが、君が心配しているようなプライベートなことは見ていない」
「……わかりました」
彼は、知らないふりをしてくれているだけかもしれない。でも、彼を責めることは筋違いであることもわかっている。
村岡さんに促されて、二人で遊歩道のベンチに座った。
彼はそういうものの、しばらく黙っていた。何かを考えているように見えるし、首を傾げてうーんとうなったりして何かに迷っているようにも見える。彼が私の前で何かを言いにくそうにしているのはあまり見たことがない。しばらく横で黙って待っていたら、ようやく彼が口を開いた。
「俺には霊感があるんだ。……いわゆるな」
私は待った挙げ句、彼から出てきたことばに、実にこころの底から戸惑った。だけど、彼の横顔からうかがえる表情は、真剣そのものだ。だから、何も言わず彼の続きの言葉を待った。
「君と初めて出会った、あの季節外れの台風の夜。どこからか、声がしたんだ。男の声で。女に声をかけてやってくれという。それで無理をして、あの大嵐の中、あの店に出向いてみた。そうしたら君がいた」
私はあの日の彼の姿を思い出した。
そうだ。あの日、店に一人で入ってきた彼は、きれいな革靴を履いて、大雨のなかを出歩くような姿ではなくて不思議だった。
「ただ、声を聞いただけだ。その一度だけ。その意味が知りたくて君に興味をもった」
彼は私の顔を見て言った。
「信じるか?」
私は黙って頷いた。
「わかった。じゃあ、続きを話そう」
「待ってください。その声の主って……」
「向井という男だろう? 君の元彼の」
既に知られていたとは思っていたが、村岡さんの口から向井さんの名前が出るとやはりショックだ。
「向井さんのことも、知っていたんですね。……やっぱり」
「怒るなよ。だから言うのを迷ったんだ」
「別に怒っていないです。……少し驚いただけです」
彼は黙って微笑んだ。
「でも、向井さんは、村岡さんに何の用だったんでしょうか……? 彼は幽霊として呼びかけたんですよね?」
「さあな。でも、たぶん、彼は、君をあちらの世界に惹き込んでしまうと心配したんだろう。声が聞こえる俺に救いを求めたんじゃないかな」
ああ、やっぱりと思う。
自覚なく随分と病んでいたあの頃の自分を思い出していた。やっぱり村岡さんには、あの頃の私は死にそうにみえていたんだな、と。
「霊感があると、やっぱり幽霊が見えるのですか?」
「ちょっと違う。あくまで俺の場合だが、霊というか、死んで霊になった故人の記憶が認識できる」
私はそれを聞いて少し焦った。
「あの……、どの程度のことをご存じなのでしょう? その、彼のことや、私と彼との関係を……」
「病気持ちで、不倫の関係の」
「そういうことでなくて」
「心配するな。断片的な彼の記憶しか知らん。というか、霊的に知れるのはその程度のものだ。すぐ消えるし、その時は誰のものかはわからないんだ」
「例えばどんな……?」
「俺を疑っているのか? ……まあ、気持ちはわからんでもない。だから俺も言うかどうかを迷った。だが、君が心配しているようなプライベートなことは見ていない」
「……わかりました」
彼は、知らないふりをしてくれているだけかもしれない。でも、彼を責めることは筋違いであることもわかっている。