霊感御曹司と結婚する方法
彼は、気まずそうな顔をしているかもしれない私の顔を見て、微笑んで言った。
「でも、彼は君のことが好きだったと思うぞ。こころから。随分と」
そういうことを彼の口から言われるとますます気まずい。
本命の彼と、訳アリの関係だった元彼の話なんか本当はしたくない。だけど、もう最後だし、この際、彼に話してしまってもいいかもしれないと開き直った。
「……どうして、そう思いますか?」
「そうだな。君と過ごすなかで、ふと自分のものとは違う記憶や風景が見えることがあった。それはどれも美しく、優しく、そしてあたたかいものだ。だから、彼は心から君を好きで、君に感謝していたんだろうなと思った」
そのことばは、私を少し苦めた。
「……私は、お付き合いしている間は、彼と別れたいと思ったこともあったし、亡くなってからは、彼を恨むこともありました。お金のことで」
「ああ、……それな」
現金の入った封筒がいくつも開けられた時の光景が目に迫った。
「看病をしてくれなかった奥さんに、財産を渡したくないからといって、私を巻き込まないでほしかった……」
私は力なく笑って言った。
「亡くなってからは、彼の意図が聞きたくても会って話もできないし。文句もいえないし」
「それはそうだな」
「そのことのほとぼりが冷めた後でも、彼のことが懐かしくなって、何でもないことを聞きたくなっても、できないんです。そういうことがしばらく辛かったです」
「……何でもないことって何だ?」
私は思わぬところに彼が食いついてきたと思った。
「えっと、……つまらないことですよ?」
「とても気になるんだ。言えよ」
それは、本当に何でもないことだけど、彼の真剣な表情を見て正直に言った。
「そうですね……、形見なら彼が大事にしていた木彫りの魚のキーホルダーが欲しかったんです。あれはどうしたんだろうって」
村岡さんは神妙な面持ちをして言った。
「……それなら心当たりがある」
村岡さんはコートの内ポケットから鍵を取り出してそれについたキーホルダーをぶら下げて見せた。
「これじゃないか?」
私は声が出ないくらい驚いた。手品か魔法か、そういうものかと思った。
「君に出会う、少し前だったか? 支社の事務員が急逝した社員の私物が後になって出てきて、どう処分したらいいか困っているという話を偶然聞いた。見せてもらったら、はっきり言ってガラクタばかりだったが、その中に丁寧に皮布に包まれたそいつを見つけたんだ。何か意味のあるようなものに見えたし、気になってもらっておいた」
事務所の倉庫の鍵につけていたと言って、鍵から外して渡してくれた。
「これを渡したいがために、その男は俺を君に引き合わせたんじゃなかろうな? 君を苦しめていた、金がどうとか、不貞行為がどうのってのは、そいつにとって、実はどうでも良かったんじゃないか? 俺は、同じ男だからわかる」
彼はうんうんと頷きながら言った。
「これは、彼のお母さんが子供の頃に買ってくれたものらしいです。人生が上手くいくお守りだって」
そういうものを大事に持っている向井さんのことが私には意外で、そういう彼の少しすました見た目と違うギャップに惹かれていたというのも事実だった。
「人生が上手くいく……か。悪妻を掴み、病気は治らなかったがな」
「なんてこと言うんですか? ……ほんとに」
「大丈夫だ。そこは、彼も笑うところだろう」
「でも、彼は君のことが好きだったと思うぞ。こころから。随分と」
そういうことを彼の口から言われるとますます気まずい。
本命の彼と、訳アリの関係だった元彼の話なんか本当はしたくない。だけど、もう最後だし、この際、彼に話してしまってもいいかもしれないと開き直った。
「……どうして、そう思いますか?」
「そうだな。君と過ごすなかで、ふと自分のものとは違う記憶や風景が見えることがあった。それはどれも美しく、優しく、そしてあたたかいものだ。だから、彼は心から君を好きで、君に感謝していたんだろうなと思った」
そのことばは、私を少し苦めた。
「……私は、お付き合いしている間は、彼と別れたいと思ったこともあったし、亡くなってからは、彼を恨むこともありました。お金のことで」
「ああ、……それな」
現金の入った封筒がいくつも開けられた時の光景が目に迫った。
「看病をしてくれなかった奥さんに、財産を渡したくないからといって、私を巻き込まないでほしかった……」
私は力なく笑って言った。
「亡くなってからは、彼の意図が聞きたくても会って話もできないし。文句もいえないし」
「それはそうだな」
「そのことのほとぼりが冷めた後でも、彼のことが懐かしくなって、何でもないことを聞きたくなっても、できないんです。そういうことがしばらく辛かったです」
「……何でもないことって何だ?」
私は思わぬところに彼が食いついてきたと思った。
「えっと、……つまらないことですよ?」
「とても気になるんだ。言えよ」
それは、本当に何でもないことだけど、彼の真剣な表情を見て正直に言った。
「そうですね……、形見なら彼が大事にしていた木彫りの魚のキーホルダーが欲しかったんです。あれはどうしたんだろうって」
村岡さんは神妙な面持ちをして言った。
「……それなら心当たりがある」
村岡さんはコートの内ポケットから鍵を取り出してそれについたキーホルダーをぶら下げて見せた。
「これじゃないか?」
私は声が出ないくらい驚いた。手品か魔法か、そういうものかと思った。
「君に出会う、少し前だったか? 支社の事務員が急逝した社員の私物が後になって出てきて、どう処分したらいいか困っているという話を偶然聞いた。見せてもらったら、はっきり言ってガラクタばかりだったが、その中に丁寧に皮布に包まれたそいつを見つけたんだ。何か意味のあるようなものに見えたし、気になってもらっておいた」
事務所の倉庫の鍵につけていたと言って、鍵から外して渡してくれた。
「これを渡したいがために、その男は俺を君に引き合わせたんじゃなかろうな? 君を苦しめていた、金がどうとか、不貞行為がどうのってのは、そいつにとって、実はどうでも良かったんじゃないか? 俺は、同じ男だからわかる」
彼はうんうんと頷きながら言った。
「これは、彼のお母さんが子供の頃に買ってくれたものらしいです。人生が上手くいくお守りだって」
そういうものを大事に持っている向井さんのことが私には意外で、そういう彼の少しすました見た目と違うギャップに惹かれていたというのも事実だった。
「人生が上手くいく……か。悪妻を掴み、病気は治らなかったがな」
「なんてこと言うんですか? ……ほんとに」
「大丈夫だ。そこは、彼も笑うところだろう」