愛は手から零れ落ちる

次の日がお通夜だった。

当日、お通夜の始まる時間より少し早く行くことにした。
受付はまだ準備中だったので、ご家族に挨拶に向かった。お母様は私の顔を見るなり、叫び泣き崩れた。
お母様のところに行こうとすると、お父様が私を止めた。私は快く思われていないようだ。
私は焼香を済ませ、式場を後にしようとした。

お父様が追ってきて、

「朋美さん、君も辛いのに申し訳ない。君が悪いわけではないけど妻は君の顔を見るのがつらい様だ。申し訳ないが、明日の告別式もその後も来ないで貰えるだろうか。本当に申し訳ない。」

お父様は深々と頭を下げた。

「わかりました。もうお伺いは致しません。でも、出来ましたらお墓だけお教えいただけますでしょうか。」

「わかった。納骨が済んだら連絡する。」


次の日、告別式に出席できなかったので私は式場の近くまで行き遠くから手を合わせた。


職場は1週間休ませてもらった。

1週間後、出勤して私は部長に退職届を渡した。
部長は驚いて私を引き留めたが、私は部長に今までのお礼を告げ、頭を下げてその場を去った。
部長の優しさは本当にありがたかった。しかし、正人さんの思い出があるこの職場に毎日通うことは、私には到底耐えられることではなかった。
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