一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
一方同じ頃、新婦側の席では離婚している繭の母と父が、並んで座っている。
娘の晴れ姿とこの場の雰囲気を楽しむ母とは逆に、少しお疲れな様子の父がこめかみを押さえていた。
「あんた昨夜、一人で祝い酒してたんでしょ?」
「……よくわかったな」
「ったく、本番に二日酔いになってどうすんのよ」
「つい嬉しくて飲みすぎた」
「薬は飲んだの?」
「忘れた」
相変わらず計画性のない父に対して大きなため息をついた母だったが、長年連れ添った元夫の変化はすぐにわかるし、予想もできる。
すると手提げの紙袋から取り出したのは、頭痛薬とペットボトル飲料水。
「もうすぐ式始まるんだから、早く飲んで治しちゃって」
「……悪いな」
「……」
以前母が言っていた家族としての情は健在のようで、仕事と愛人三昧だった父も、そのせいで若い男性と遊び放題だった母も、あと数年で還暦を迎える。
離婚はしたものの、やはり繭が成人するまで共に生活をしていた今では。
恨みよりも、感謝の気持ちの方が大きいようだった。
「それにしても、本当にバージンロード一緒に歩かなくてよかったの?」
「俺はそういうの恥ずかしいし、胸張って歩けるような父親じゃないからな」
「まあ、確かにクズだったわね」
「言うなぁ」
「ふっ、事実でしょ」
そう言って微笑み合った父と母。
こんな会話をしているなんてことは、別場所で待機している繭が知る由もない。
しかし、最高の思い出を残す為に配置されていた式場カメラマンが、新婦の両親が仲睦まじく話している光景をバッチリ写真に収めていて。
その写真は結婚式が無事終わった数日後、何気なくデータチェックをしていた繭が目にすることになる。