一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
ガチャ
「繭さーん……?」
「え!?椿さん……!」
玄関へ向かった繭が見たのは、私服姿の椿が玄関ドアを開けて恐る恐る中を確認しようとしているところだった。
「突然押しかけてごめん。心配で色々買ってきたから渡して帰ろうと思ってたんだけど、ドアが開いてて……」
「えっ!?」
そう言って買い物袋を見せてきた椿が視線を落とすと、母の脱ぎ捨てた靴が玄関ドアに挟まるような位置にある。
それを見た繭は、靴が挟まりドアが完全に閉まっていなかった事を不審に思った椿が、自分の身を案じて呼びかけてくれたのだと察した。
「す、すみませんでした!ご心配おかけしてっ」
「それは全然、繭さんが無事で良かったよ」
にこりと優しく微笑んだ椿に、今日会えなくなってしまった事を残念に思っていた繭の心が、一瞬にして救われる。
この笑顔が見たくて、初デートを楽しみにしていたのだから。
応えるように繭も自然と笑顔をこぼした時、背後に近付く足音に気がついて心臓が大きく跳ねた。
「繭〜?そちらの男性はどなた?」
「お、お母さんっ!」
存在を忘れられていた母がすぐ後ろに迫っていて、明らかに何かを期待するような表情でニヤニヤが止まらない様子。
まだ会わせる予定はこれっぽっちもなかった母と椿が、このタイミングで顔を合わせてしまった。
これまで以上に体調が悪化してしまいそうな状況に、きっと椿も困っているに違いないと思った繭がその場を収めようとした時。
「初めまして、繭さんの友人の天川椿と申します」
「あらご丁寧にどうも、繭の母です〜」
「繭さんが体調不良と聞いて色々お届けに伺いましたが、お母様がいらっしゃるなら安心ですね」
椿の方から頭を下げて挨拶し、爽やかな笑顔を絶えず浮かべているので、面食いの母も上機嫌になっているのが恥ずかしいくらいにわかった。