一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
「……はい、好きですとても」
「っ……!!」
母に男性を紹介した事が今までなかった繭は一体どうなってしまうのかハラハラしていたが、何の躊躇いもなく真っ直ぐな気持ちを打ち明ける椿に。
ますます心が奪われていくほど、ああ好きだなぁと実感する。
宣言した椿本人は変わらず微笑んでいるのに、改めて好きと言われた繭の方が頬を赤らめて沈黙していた様子に。
繭の母は、言葉にせずとも二人が相思相愛である事を理解して、安心の表情をこぼした。
「……では、今日はもう帰りますね」
そう言って玄関先に買い物袋を置いた椿は、繭と母に一礼して玄関のドアノブに手をかけると、何故か突然前進できなくなる。
ゆっくり振り向くと、繭の母が椿を帰さんと服の裾を掴んで離さなかったのだ。
一人娘の想い人が今目の前にいる男性だと知り、将来への期待と好奇心がフル稼働した母が、椿を無理矢理家の中へとひきずりこむ。
「邪魔なんてとんでもない!さあどうぞどうぞ上がって下さい!」
「お、お母さん!椿さん困ってる!」
「大丈夫よ!お母さんはもうすぐ帰るからあんたは椿さんに看病してもらいなさい」
そうしてあっという間にリビングへと連れて行かれた椿は、先程まで母の陣地であったソファに座らされていた。
強引な母にため息を漏らした繭は、椿のお茶の準備をしにキッチンへ向かう。
すると、繭の事を気遣って直ぐにソファから立ち上がった椿は、床に座ろうとした繭の母に声をかけた。
「お母さん、ソファ座って下さい」
「え?」
そして素早くキッチンに向かうと繭にも同様の言葉をかけ、気遣い合いながら仲睦まじく視線を交わしているのが見えて。
繭の母は何だか胸が熱くなり、感動すら覚えた。