一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




「産婦人科医の椿だもの、子供を残酷な目には遭わせられないから結婚して育てるしか道がないじゃん」
「っ……」
「そんな事で椿と結婚出来るんなら、もっと前に私が椿と子供作りたかったわ!」



悔しさと叶わない想いをぶつけるように声を荒げると、凛の瞳が徐々に潤んできた。


しかしその訴えは、決して手に入らない幻のオモチャを無理矢理取り寄せようと泣き喚く子供と同じで。

だから椿は、幼馴染の凛を異性として見た事もなければ、今後そうなる可能性も絶対に無いと言い切れる。



「そんな理由で作るな、子供はそんなもののための手段でも、存在でもない」
「偉そうに説教しないで、避妊も出来ない奴に言われたくないわよ」



ドアの前に立ちはだかり一向に退けようとしない凛。
昔からこう口が達者なところも頑固なところも変わらないなと思い出し、椿は諦めのため息をついた。



「凛が俺を想うのと同じで、俺も繭さんに全てを捧げたいし、そばにいたいし失いたくない」
「……っ」
「俺は、自分の意志で繭さんを選んだ」



だから、凛が一生椿を想っていくのは勝手だけど、椿が特定の女性を想う以上、一生実る事はない。

今まで椿に振られても折れる事なく、何度も積極的に攻めては想いを伝えてきた。


しかし今回ばかりは、凛が押せばいけるというわけでもなく、繭に嘘の情報を流して距離を取らせても椿が自ら取り返そうと追いかけるので。

椿の心はもう、他人がどうこうできるものでは無くなっているんだと悟る。



「だからもう俺の事は諦めろ、邪魔するな」
「っ……!」



愛しい人を想うが故に周りが見えず止められなくなる気持ちは、長い間椿を想い続けた凛がよくわかっている。

そして凛がこれ以上踏み込むと、椿に絶縁されてしまうところまできている気がして、片想いを続けている今現在の関係が更に悪化する事となるから。


静かに俯いた凛は、両手を下ろしてドアを譲ると、椿は振り返る事なく応接室から出て行った。



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