一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




繭に電話をかけながら白衣を脱いで病院の外まで出てきた椿は、その敷地内に停めてある自分の車まで走っていた。


凛との関係の説明と、凛から聞いた事は信じないで欲しいと早く伝えたい。

しかし呼び出し音だけがずっと続いて、一向に電話を取ってくれる気配がなく焦っていた椿。


駐車場に到着し遠隔操作で鍵を開けると、急いで車に乗り込みエンジンをかけようとしたその時。

椿のスマホが着信音を鳴らし、画面には繭の名前が映し出された。



「繭さん!?」
「……勝手に帰ってしまって……ごめんなさい」
「そんな事はいいんだ、それより……」



電話口の繭の声は明らかに元気がなく、そして初めに出た言葉は椿に対しての謝罪。

きっと繭の方が傷ついているはずなのに、そんな時でも欠かさない気遣いに、胸が痛んだ。



「今すぐ繭さんに会いたい、どこにいるか教えて?」
「…………」
「繭さん?」



返答のない繭を心配して数回名前を呼ぶと、やっと声を発してくれた繭だったが、それは居場所を教えてくれる内容ではなく。



「私……椿さんと、結婚できません」
「…………え?」



思いもよらない突然のセリフに、エンジンをかけそびれた車内は静まり返り、椿の身動きの全てが停止した。

凛に嘘の情報を吹き込まれたあとだから、繭が椿と結婚できないと思ってしまうのも無理はない。

だけどそれは間違いなんだという椿の弁解を聞くより先に、繭は理由を述べ始める。



「凛さんという方に言われて気付きました、私はズルい人間だと」
「え?」



椿の子を妊娠して、初めての事に戸惑いながらも一人で産む覚悟をする。

そんな中でプロポーズしてくれた椿に愛されて大事に扱われ、それにより繭自身も椿の事を好きになっていくのが日に日にわかっていった。



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