一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




椿の運転する車は築20年のマンション前に停車して、繭の自宅がある二階へ急いで駆け上がる。

しかし、インターホンを鳴らしてもノックを繰り返しても、繭の返事や反応は内側から一切なかった。



「(……繭さん、まだ帰ってないのか?)」



どこかへ立ち寄っているのか、椿が自宅にくる事を予想して時間を潰しているのか。

繭の性格上、今頃一人で抱え込んでいるかもしれないと心配する椿は、凛が帰国した時点でもっと警戒しておくべきだったと後悔した。


親同士の交流があり、昔から妹のように可愛がっていた凛は、いつしか椿に好意を寄せて包み隠さずアピールしてくる女性となる。

それを毎回軽くあしらいつつ、椿には全く好意がない事を伝えてしっかり断っていた椿。


それは一年前に行われた、凛の海外進出パーティーでも。





***


―― 一年前。



「ねえ椿」
「ん?」
「私が帰国する一年後、もしお互いにフリーだったら結婚しない?」



賑わう会場から少し外れた場所で、本日の主役でパーティードレスを着た凛が、椿にそんな提案をしてきた。

相変わらず諦めが悪いなという思いが顔に出ていた椿は、持っていたシャンパングラスに口をつけて中身を飲み干すと一言。



「無理だな」
「はあ!?なんでよ」
「一年後フリーの予定ないから」



裏を返せば、この一年にパートナーを見つける予定にあるらしく、そんな事を今まで宣言したことがなかった椿に、凛の方が驚いていた。



「なにそれ、遊び歩いてる椿がついに特別な人でも作るの?」
「まあ、今のところ眺めてるだけだけど」
「どういうこと?」



いまいちピンとこない椿の会話に、また作り話でもして自分を諦めさせようとしているんだと思い、本気にしなかった凛。

そして通りかかったカメラマンにこの時のツーショット写真をお願いすると、それを待ち受けに設定して後日日本を離れる。



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