大正浪漫 斜陽のくちづけ
「少しだけ」

 耳朶に唇を寄せ、甘く掠れた声で囁く。そのまま凛子に覆いかぶさると再び唇を奪われる。今度は深く、激しく。

「んっ。あ」

 結婚前に、こんなことをしてはならないと思いつつ、その心地よさに陶酔する。前回と違って密室なせいか、大胆になっているのかもしれない。
 口腔内を舌で搔きまわされると、頭の中が蕩けそうで体に力が入らなくなる。
 顔を逸らしても、何度も角度を変えてはくちづけが繰り返される。

「心配しなくても結婚までは手を出さないよ。ずいぶん待ったから、少しくらいいいだろう」

 凛子からしたらまだ出会ったばかりだし、十分手も出しているように思えた。
 結婚前に妊娠などするわけには当然いかない。それくらいの分別はあるのかと安心したのも束の間、胸元の釦を外して中に手を滑り込んでくる。
 驚いて体を引くが力では敵わない。

「したことは?」

 なんのことか一瞬わからなかったが、経験の有無を聞かれているのだと気づく。
 真一郎とは幾度かくちづけを交わしたけれど、相楽とのような淫らなものではない。言うなれば子供同士の戯れのようなものだ。それすらも罪悪感で胸が痛んだというのに。

「どちらにせよ、これからはあなたに触れていいのは俺だけだ」

 むき出しになった胸元に顔を埋めて呟く。くちづけられた部分に軽い痛みを覚え見下ろすと白い肌に赤い痕がついている。

「誰にも見られないように。二人だけの秘密だ」

 ささやかな胸の膨らみが大きな手に包まれ、強く揉まれる。いつまでも少女のような薄い体つきに熱い視線が這う。

 中心を吸われると、くらくらと眩暈がしてきた。

「……ひっ」

 意図せず漏れた声が自分でも聞いたことがないようなもので、思わず口を塞いだ。階下にはまだ人がいる。
 相楽の口の中で、胸の頂きが転がされ芯を持ったように固くなり、下腹に熱が溜まる。自分の体に起きた変化に戸惑う。

 絞り出すように、幾度も吸い付かれると呼吸が乱れ、無意識に彼の頭にしがみついてしまった。

「いやっ」
「そんなかわいい声出さないでくれ」

 首を振り、拒絶するが、相楽はまるで意に介さない様子だった。

「参ったな。少し触れるだけのつもりだったのに」

 手がスカートの中の太もも部分に入り込み、太ももを撫でまわし、中心に近づいてきた。
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