大正浪漫 斜陽のくちづけ
 隙間から入ってきた指が凛子の恥毛に触れ、なにかを探すように下腹を撫でまわした。

「いやっ」

 手で押し返そうとするも、がっしりと抑えつけられて、動けないうえに、口吸いをされ声も出なくなる。

「んっ。ん」

 相楽の指が凛子の敏感な花芽をとらえ、二本の指で挟んで扱く。
 婚約したからと言って、こんなに手荒に秘めるべき場所を暴かれて、凛子は屈辱で憤った。
 それなのに、体から骨がなくなってしまったかのように、力が出ない。
 口を吸われ、指でいたずらに刺激され続けていると、中から蜜が溢れてくる。

「んーっ! んっ」

 必死に首を振って拒絶するがやめてくれない。

「大分濡れてきた。わかるか?」

 そんなことはわからない。

「あ、あっ」

 凛子の限界が近づくのを察して、相楽が指の動きを早めた。

「いやっ」

 もうすぐ自分の知らないなにかが近づいてくる。本能的な恐怖で凛子は太ももを閉じようとするが、それが却って相楽の悪戯心を刺激してしまうようだ。

「我慢しなくていい。あなたはもう俺のものになるのだから」
「あっ」

 すっかり包皮から露出した花芽を直接ぐりぐりと刺激され、凛子は達してしまう。

「上手だ」

 はぁはぁと肩で息をしていると、今度は中に指が入ってくる。
 男の太い指は一本でも圧迫感があり、その異物感に恐怖する。

「怖い。もう許して」
「かわいくてついね」

 内部の感触を確かめるように、指が動き回る。
 もうこんな辱めは耐えられない。

「旦那様。見積りができたそうです」

 扉を叩く音と共に使用人の声がし、一気に現実に引き戻された凛子が飛び起きる。

「行かなきゃ」

 相楽が濡れた自分の指を舐めた。その淫らな行為に凛子の体がなぜか疼く。

「まだいい」

 懲りずに抱きついてくる腕を振り払って、着衣を整える。

「駄目です。まだ結婚してもないのに」
「せっかくいいところだったのに。邪魔が入ったな」

 相楽は長椅子に倒れ込むと、駄々っ子のような不機嫌な顔をして、ふてくされていた。自分のほうが悪いことをしているような気になって、

「あ、あの……結婚してからお願いします」

 妙なことを口走ってしまった。
 相楽ががばっと起き上がると、

「まぁそうだな。あと少しの辛抱だ」

 すっかり気を取り直したようで、そのあとは上機嫌で行商に今後のことなどを話していた。

「まだ明るいな。食事してから帰るのでも構わないか?」

 少し迷ったが、すでに家に電話して父の了承を取ったようなので、行くことにした。
 強引なところもあるが、こういうところは律儀で、凛子の立場も考えていてくれるようだった。

 家具などの相談を行商と済ませたあと、近所の酒場に行くことになった。
 大衆向けの店に行ったことがない凛子は、活気の溢れた店内の様子に驚き、知らない世界に迷い込んだような気分になってしまう。

「はは。そんな驚いた顔をして。お上品な店にはない良さがあるだろう」
「ええ」

 出てくる料理も、どれも美味しかった。
 店の人たちも彼のことを昔から知っているようで、二人をにこにこと見守っていた。

「よう、色男。お上品な娘さん連れてどうした」

 店にいる顔見知りらしい男性に声をかけられる。

「あぁ。結婚することになった。きれいだろう」

 臆面もなく言い放つと、 

「若い頃と比べりゃ大分落ちついたと思ったけど、これはまた……趣味が変わったんだなぁ」

 男性は顎に手を当て、凛子を見入っている。その発言に引っかかる。

「貴重な時間なんで邪魔しないでくれると助かる」

 男性が去ったあと、聞いてみる。

「いつもは他の女性と来るんですか」
「いや、もう近頃はそんなことはないよ」

 近頃ということは、前はあったと言うことだ。先ほどまでの楽しい気分は引っ込んで、もやもやとした気分になる。

「嫉妬してくれるのか? 意外だな」

 遠慮のない言い方だ。こちらの気持ちなぞ考えてもいない。

「そんなことないです。そろそろ帰らないと」

 そう言って無言で飲み物を飲み干す。あまり遅くなっては家族に心配をかけてしまう。
 帰り道、車に乗り込む前、今度は女性に声をかけられた。

「遼介さん?」
「セツさんか。奇遇だな」
「市場に買い出しに来たのよ。最近見ないと思ったら。かわいらしいお嬢さんを連れてるのね」
「あぁ九条伯爵家の凛子さんだ。難攻不落の姫君がようやく頷いてくれて結婚が決まったところだ」

 誇らしげに相楽が凛子の肩を抱き、紹介した。
 その言葉にセツと呼ばれた女性は一瞬言葉を失った。

「まぁ……それはおめでたいわね。大変じゃないの。そんな立派なお家のお嬢様と婚約なんて」

 その反応に、凛子はこの女性が、単なる顔見知りではないような印象を受けた。

「今までのように自由というわけにはいかないわ。遼介さんも覚悟しないと」
「当然だ」
「守る方ができてこそ男は一人前と言いますからね」

 二人の会話に流れる空気には、どこかしら親密な香りがした。凛子の知らない過去も知っているのだろう。

「時々食べに行く小料理屋をしている人でね」
「まぁ……素敵ですね」

 あまり世間に明るくない凛子とはかけはなれた女性。なぜだか不安に駆られた。

「では、失礼します」

 きびきびとした動きで去っていくセツと別れ、車に乗り込んだ。
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