大正浪漫 斜陽のくちづけ
今日は相楽が帰ってくる日だった。あちこちに支社があるが、今日は一番近い事務所に戻ってくると聞いている。
凛子は彼の会社へと向かった。きっぱり問い正すつもりだ。
「本当に一人でいいんですか?」
「ええ」
事情を唯一知っているふみが心配そうな顔で凛子を見送った。
事前に用意した地図をもって、相楽の会社へと向かった。人で賑わう街の中を相楽の会社のあるビルを探す。
「ここだわ」
二階にあるという事務所へ向かうため階段を上る。換気のためか、扉が半開きのままだった。声をかけようとすると中から話声が聞こえてきた。
「相楽はまだ帰らないのか」
「そろそろ帰ると思いますよ」
「突然取引停止されて損害を被ってるんだ。説明してもらわないと気が済まない」
取引相手らしき男が苛立った様子で話すのが聞こえてきた。
まだ帰ってこないようなら待たせてもらうことも考えていたが、来客中なら外で待った方がよさそうだ。
「待っても、話を聞くとは限りませんがいいですか」
従業員らしき青年が困った様子で答えていた。
「しかし、結婚するって話は本当なのか。まさか華族のお姫様にまで手を出そうとはね。貴族院に義父がいればなにかと便利だ。全く目敏い奴だよ。どんな娘なんだ?」
外で待つつもりが自分の話がされていると思うと、その場で固まってしまった。
「なにも言えませんね」
男は構わずまくし立てる。
「商売もでかくなるほど敵も増える。伯爵様の威光目当てなんだろうが、さすがに驚いたよ。金と権力の結婚だ。価値としては見合ってるのかもしれんな」
「社長も今忙しくてピリピリしてるもんで、そうっとしておいてもらえますか」
呆れた声で諫められても、男は会話をやめる気配がなかった。
「あの女とも続いてるんだろう。ああ見えて情が深いようだから。子供まで産ませておいて、そうそう縁が切れるものでもあるまい。相手のお姫さんは知ってるのかい」
凛子は息もできずに、ただその場に立ち尽くした。
自分意外は周知の事実だったらしい。惨めだった。
「個人的な話はできかねます」
「全てが順調なようで、俺もぜひともあやかりたくてねぇ。また一緒に仕事がしたいんだ」
「そろそろお帰り下さい。話したって無駄ですよ」
「はは。相変わらずの短気か? 敵に回したくないのは、百も承知だから、こうやって通いつめてるんだよ。また来るよ」
凛子は彼の会社へと向かった。きっぱり問い正すつもりだ。
「本当に一人でいいんですか?」
「ええ」
事情を唯一知っているふみが心配そうな顔で凛子を見送った。
事前に用意した地図をもって、相楽の会社へと向かった。人で賑わう街の中を相楽の会社のあるビルを探す。
「ここだわ」
二階にあるという事務所へ向かうため階段を上る。換気のためか、扉が半開きのままだった。声をかけようとすると中から話声が聞こえてきた。
「相楽はまだ帰らないのか」
「そろそろ帰ると思いますよ」
「突然取引停止されて損害を被ってるんだ。説明してもらわないと気が済まない」
取引相手らしき男が苛立った様子で話すのが聞こえてきた。
まだ帰ってこないようなら待たせてもらうことも考えていたが、来客中なら外で待った方がよさそうだ。
「待っても、話を聞くとは限りませんがいいですか」
従業員らしき青年が困った様子で答えていた。
「しかし、結婚するって話は本当なのか。まさか華族のお姫様にまで手を出そうとはね。貴族院に義父がいればなにかと便利だ。全く目敏い奴だよ。どんな娘なんだ?」
外で待つつもりが自分の話がされていると思うと、その場で固まってしまった。
「なにも言えませんね」
男は構わずまくし立てる。
「商売もでかくなるほど敵も増える。伯爵様の威光目当てなんだろうが、さすがに驚いたよ。金と権力の結婚だ。価値としては見合ってるのかもしれんな」
「社長も今忙しくてピリピリしてるもんで、そうっとしておいてもらえますか」
呆れた声で諫められても、男は会話をやめる気配がなかった。
「あの女とも続いてるんだろう。ああ見えて情が深いようだから。子供まで産ませておいて、そうそう縁が切れるものでもあるまい。相手のお姫さんは知ってるのかい」
凛子は息もできずに、ただその場に立ち尽くした。
自分意外は周知の事実だったらしい。惨めだった。
「個人的な話はできかねます」
「全てが順調なようで、俺もぜひともあやかりたくてねぇ。また一緒に仕事がしたいんだ」
「そろそろお帰り下さい。話したって無駄ですよ」
「はは。相変わらずの短気か? 敵に回したくないのは、百も承知だから、こうやって通いつめてるんだよ。また来るよ」