大正浪漫 斜陽のくちづけ
 熱いものが蜜口に押し当てられたと思うと、粘膜が徐々に広がり、圧迫感と異物感に泣きだしたくなる。

「つかまって」

 促され背に手を回す。

「無理です。こんなの」

 押し広げられた花びらがひりひりと痛む。

「ん……慣れるまでこうしていようか」

 もうここまで来るとわけがわからず、相楽が自分の足を抱え上げ、腰を沈めるのをぼんやりとただ見ていた。

「凛子……入ったよ」

 呻くような呟きと共に腰を一層奥まで進めてきた。敷布を握りしめて違和感に耐える。

「あっ……。あ、や」

 恐る恐る下を見ると、根本まで繋がっているのが見えた。
 不安な目で相楽を見上げると、彼もまた苦しそうな顔をしていた。
 これでもう終わりなのだろうかと思っていると、

「慣れるまでちょっと辛いかもな」

 軽く頬に口づけ、相楽が動き出す。
 快とも不快とも言い切れない妙な感覚と圧迫感で、自分の体がもう変わってしまったことを知る。

 うまく表現はできないけれど、きっともうこれを知る前には戻れないのだろうということがわかった。
 ゆっくりと相楽が動くたびに、意思とは無関係に体から漏れてくる蜜で、痛みが和らいでくる。

「辛い?」
「少し……」

 凛子を気遣うように、ゆっくりと動きながら何度もくちづけを交わす。無意識に舌を絡め広い背に手を回して、しかと抱きついていると、さきほどまでの緊張もほぐれ、段々体が慣れてくる。

 そんな様子に気づいたのか、相楽は徐々に強く突き上げ始めた。その激しさにはついていけず、凛子は切なげに喘いだ。

「激しいのいや……」

 必死の懇願にも、もう耳を貸す余裕をなくしたようで、凛子の体が揺れるほど突き上げ、息遣いも荒くなっている。
 剥きだしの濡れた肌と肌が重なる。他人とこんなふうに触れ合ったことはない。身体に溜まった熱で溶けてしまいそうだった。

 分厚い胸板に玉のような汗が滲み出て、動く度に凛子の胸に降ってくる。
 一際激しくなった律動に追いつめられて、凛子は相楽の背にしがみついて、その時を待った。

「凛子、愛してる」

 朦朧とした意識の中、囁かれた言葉は、嘘とは思えなかった。痛みと快感の狭間で凛子はつま先を引き攣らせた。
 体内に熱いものが迸り、この行為が終わったことを知る。

 長い吐精を終えた夫の体が重たくのしかかる。
 耳朶にふわりと触れた吐息に切なくなる。
 ──私、この人が好きなんだ。
 本当なら幸せなはずのその想いも、今の凛子には空恐ろしく思えるのだった。
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