大正浪漫 斜陽のくちづけ
「はぁ、はぁっ」

 力づくで屈服させられ、抵抗する気力も萎える。

「入れるよ」

 もう息もまともにできないほどに乱れた余韻に浸っている凛子を、相楽が一気に貫いた。
 先ほどとはまた違う快楽に身を委ねる。
 ゆっくりと焦らしながら、凛子の反応を見て内部を押すように体を揺らす。

「気づいてる? 悦くなると、自分から足開く癖」

 知っているくせに、毎晩意地悪く尋ねるのを忘れない。ここまで来るともうなし崩しだった。
 こくこくと頷き、開いた足を夫の腰に絡め、たくましい背に手を回す。

「いい子だ」

 子供にするように髪を撫でられると、恍惚とした気持ちになった。
 ゆるりとした動きがもどかしくなり、ねだるように白い肢体を揺らす。言葉で言えない分、体が求めていた。

「どうしてほしい?」
「や、もういじめないで」
「ただ悦ばせたいだけだよ」
「あ、ひっ、いや」

 最奥を抉られて弱々しい悲鳴をあげた。

「凛子……俺が欲しいと言え」

 時に下品な言葉で詰られて、それにすらも体が疼く。
 相楽は凛子が心を開かないのは、真一郎のことが忘れられないからだと思っている節がある。

 違うと言っても、時々閨でそういうことを口走る。彼もまた、凛子の心が完全には手に入らない不安と焦燥に駆られている。
 独占欲をまっすぐぶつけてくる相楽と比べて、凛子のそれは自責へ向かう。
 
 自分だけを愛してほしいのだと乞えば、その思いは叶うのだろうか。
 もともと相性がいいのか、相楽の手管が巧みなのか、凛子の官能は日々高まっていた。 

 ──これ以上溺れたらどうしよう……。
 心と体は複雑に繋がって、閨で交わるたびに自分だけを愛してほしいという欲求も深まっていく。

 そんな自分を戒めようとしてはいても、どうにもできない切ない想いは大きくなるばかり。
 なにもかも忘れ快楽に身を委ねてしまえば、今度は終わった後の虚しさと不安が耐え難くなる。

 家を出れば、新しい人生が待っていると思ったけれど、まだつまらない煩悩に囚われている自分を愚かだとも思う。

 ──私はこの人に牽かれているんだ。だからこんなにも辛いのだ。
 いっそ、聞いてしまおうか。あの女性と少年のことを。
 でも聞いてしまえば、それは新たな地獄の始まりかもしれない。

「私だけを見て……」

 意図せずして自然にこぼれた言葉に、相楽が驚いたような、理解できないような顔をした。

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