大正浪漫 斜陽のくちづけ
「どうした?」

 視線を感じた相楽に訪ねられるとすかさず、横から女中が口を挟んだ。

「今日は奥様がお作りになったんです。なんでも初めてだとか」

 余計なことまで言われてしまい、恥ずかしくなる。

「へぇ……よくできてるな。うまい」

 まじまじと並んだ朝食を見る。

「あの、味の好みがあれば教えてください」
「そうだな……もしまた作ってくれるなら、卵焼きが食べたい。できれば甘めの」
「はい。勉強してみます」

 食事のあと、そそくさと子猫のいる空き部屋へ向かおうとすると、夫に声をかけられた。

「どうした? 最近やけにそわそわしてる」
「ええと。色々やりたいことが溜まっていて──蔵の整理とか──そのせいで
す」

 慌てて誤魔化すとそれ以上はなにも聞かれなかった。


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