大正浪漫 斜陽のくちづけ
「あ、あの」

 欲望の滲んだ目。ブラウスの上から、胸を乱暴に揉みしだかれる。

「行くな」

 昼間からこんなことをされるのも、寝室以外で抱かれるのも初めてだった。

「ひぁっ」

 耳朶を食まれ、声が漏れる。

「静かに。俺は聞かれても構わないが、凛子が恥ずかしいだろう」

 自分からしておいて、理不尽な要求だ。鍵もかからない部屋で、明るいうちからむつみ合っているなんて知られなくない。
 耳殻の中を熱い舌が這いまわるたび、びくびくと体を震わせ、声を出さないように耐えるのが辛くなる。

「ここじゃいや」
「誰も来ないよ」
「でも──」

 せめて寝室でと頼む凛子を無視して、首の薄い皮膚をきつく吸う。

「痕ついちゃう」
「ん……そうだな」

 独占欲の証のように赤く染まる肌を見ると、いけないことをしている気分になる。
 昼間から淫らな行為に耽ることに抵抗したい気持ちと、このまま身を任せてしまいたい気持ちで揺れる。

「舌、出して」

 言われたとおりにすると、唇の間に挟まれ吸われ、甘く噛まれていよいよ酔ったように頭がくらくらしてくる。
 どうしてこの人は、これほど自分を翻弄するのがうまいのかと、ちょっと憎くなる。

「気持ちいい?」

 こういう時だけ、普段口数が多いとは言えない相楽がやけに凛子を質問攻めにする。
 わかりきったことを逐一聞かれるのは決まりが悪い。

「言いたくない」
「はは。言わなくてもわかるよ、凛子はわかりやすい」

 答えない凛子を咎めるように、耳殻に歯を立てられると、ぞくぞくしてもう立っているのも辛くなる。
 崩れ落ちそうになる凛子の腰を支えながら、器用に着衣を乱していく。むき出しになった乳房をじっくりと眺め、輪郭をなぞるようにそっと触れる。
 指先が先端に当たり、体をびくりと震わせてしまう。

「少し大きくなったんじゃないか。ちょっと幼い感じもかわいかったけど」

 幼児体形とからかわれたような気がして、むっとして目線を外す。

「怒った顔もかわいいよ」

 胸の裾野を手で持ち上げ、中心を口に含む。

「あぁ」

 舌先で器用に転がされ、媚びたような甘ったれた声が漏れる。焦らすような弱い刺激に時々きつくされると耐えきれなくなって、相楽の頭にしがみついた。

 もっと強く吸ってほしい。

「もっと? いいよ。してあげる」

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