大正浪漫 斜陽のくちづけ
 連絡を受けてすぐに指定の場所へ向かう。
 銀行で金を下し、車を飛ばす。

「そんな速度じゃ、着く前にお陀仏ですよ」

 助手席で、鈴木が青ざめた顔で相楽を諫める。

「こんな時に、ちんたらできるか」

 普段運転する鈴木からハンドルを奪い、猛烈な速度で道路を走った。怒りでどうにかなりそうだった。自分に恨みがあるなら正々堂々こちらにくればいいものを、弱い女を狙うとは卑劣すぎる。

「なんで社長に直接金を要求しなかったんでしょう」
「俺相手だと厄介なことになるとわかっているんだろう。あいつは弱い者を見極めていたぶるのが好きなんだよ」
「殺し合いだけはやめてください」
「凛子になにかあれば殺す」
「……俺もお供しますんで、どうか穏便に」

 事務作業はちんたらしている鈴木だが、こういう時だけぱりっとする。自分が興奮しているだけに冷静でいてくれるのは正直助かる。

「うまく救出できたら礼ははずむから、頼む」

 猛スピードで街道を進み、何度か事故寸前になりながらも無事目的地に着いた。
 約束の倉庫はすぐに見つかった。

「あそこですね」
「見張りがいるな」
「俺が行く」

 気づかれないように後ろから近づいて、後ろから羽交い絞めにする。突然のことになにが起きたか見張りの男もわからないようだった。

「凛子は中か?」

 男は答えない。

「悪い。急いでるんだ。お前もこんなとこで死にたくないだろ?」

 男の首にがっと腕を回すと観念したように頷く。

 こいつを自由にさせておくのは危険だ。

「車からロープを持ってきてくれ」

 男を押さえつけている間に、鈴木に荷物を縛るためのロープを取ってこさせると、後ろ手に手を縛り、足も縛っておいた。
 見張りの持っていた鍵を使い、倉庫の鍵をゆっくりと開ける。
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