純・情・愛・人
瞬間。爪先まで電流に似た衝撃が走り抜けた。宗ちゃんだったら口先だけの甘い嘘でも言わない。極道を捨てるなんて、それしかない生き方を変えるなんて。

「できるわけな」

「だろうな。薫子が泣いてすがろうが、兄貴はテメェを変えやしねぇよ」

音のないリビングに静かに響く。皮肉でもなく苛立つでもなく。

「兄貴にできねぇことを俺がやる。黙って見てろ、お前は必ず俺を選ぶ」

わたしを捕らえる指先に一瞬、力強さが籠もり。リビングから出て行った後ろ姿が凜として見えた。

言葉のひとつひとつが当たって弾け、見えない何かを全身に浴びたような。染みて広がって、擦っても落ちない気がした。

薄っすら漏れ聞こえるシャワーが流れる水音。すとん、と力が抜けたようにソファにお尻を落とす。

答えあぐねた自分がいた。広くんの手は必要ないと、振り払うのを戸惑った自分がいた。何に換えても守りたいものができたから・・・? 広くんの気持ちを利用してでも?

何だか無性に宗ちゃんに会いに来てほしい。
抱き締めて名前を呼んでほしい。

足りないものが広くんで埋まってしまいそうで。

・・・そんなはずがないのに。

宗ちゃんで埋めてほしいのに。
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