純・情・愛・人
無意識に胸元を握りしめた。ルームウェアの下に隠したネックレスの指輪を、広くんの目に触れさせたことは一度もない。

永征会の跡取りとして正式にお披露目された宗ちゃんは、ずっと重いものを背負うことになる。琴音さんを迎えて、ここに帰ってくるのもこれまで通りとはいかない。

わたしをないがしろにすると、宗ちゃんを誤解しているかもしれない。もしかしたら。奥底では宗ちゃんの結婚を覚悟しきれてなかった弱さを、見透かされていたのかもしれない。

力尽くに見えても優しさの裏返し。・・・広くんはいつもそう。

もう片方の掌を、何となくふっくらしてきたお腹にそっと添えて。深く呼吸する。わたしが笑えていれば、広くんも、誰も、辛くならない。

たとえ冷酷無比な極道の王になったとしても、宗ちゃんは宗ちゃんのままでいられるよう。

生まれてくるこの子の世界が温もりで満たされるよう。

娘の幸せをただ願って赦してくれるお父さんを泣かせないよう。

広くんが呆れながら『勝手にしやがれ』って悪ぶれるくらい。

わたしは幸せになろう。
幸せになる道を選ぼう。

「・・・おかあさん頑張るね」

微笑んで、見えない指切りをした。
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