純・情・愛・人
『本気で思うのか、俺にお前より大事な女がいると』

射貫かれた胸がじんと熱を生んだ。鼻の奥が辛くなって目が潤む。涙を堪えるので精一杯。

自分の立場は弁えてるつもりだ。優越感に浸りたいわけじゃない。だけど。生んだ熱に溶かされそうなほど、こんなに愛されている喜びが溢れてしようがない。宗ちゃんが愛しくて愛しくて、愛しい。

『薫は変わるな。何も譲らなくていい』

「・・・うん」

わたしの髪を優しく撫でながら、甘く目を細める宗ちゃんが幻になって浮かぶ。

『琴音には、お前に妙な真似をすればどうなるか教えてある。安心しろ』

「そう、なの・・・?」

『所詮は人形だ』

どこか蔑むように聞こえた。広くんもわたしを人形だと辛辣な言い方をしたけど、もっと冷たい氷の刃になって刺さった。

宗ちゃんにとって彼女は“妹”ですらないんだろうか。・・・わたしが痛みを感じるのは傲慢だろうか。形だけの結婚だとしても、琴音さんは宗ちゃんのことを。

『・・・ああ、子供が生まれるまで広己はそこに置いてやれ。親父さんの心配も少しは減るだろう』

「広くんがいいなら助かるけど・・・」

声は普通を装える。電話でよかった。自分の中で、広くんの存在を消化しきれずに戸惑っているのを見抜かれずに済んで。
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