純・情・愛・人
『役に立たなければ遠慮なく叩き出せばいい。広己を甘やかして情にほだされるなよ』

「わたし甘いかな」

取り繕って小さく笑い返しながら。ベッドに横になったままの心臓が大きく波打った。今のは本当は、宗ちゃんには全てお見通しで釘を刺されたのかと。

裏切るようなやましい気持ちは欠片もない。なのに底の底が靄がかって。

『来週はゆっくりお前の顔を見に帰る』

「ほんとに・・・っ?」

やっと会える。靄が一瞬で四隅に散らばった。

『薫を我慢させて、俺が我慢していないとでも思ったか』

不敵な気配。

『覚悟しておくんだな。俺の気が済むまで離してやれないぞ』

ああ。宗ちゃんはやっぱり太陽だ。広くんがどんなに強い風になって吹き付けても、黒い雲になって覆い尽くしても、絶えることなくそこに在り続ける、わたしの太陽。

ずっと声しか聞けなくて寂しくて。太陽が翳っていたから、気持ちが弱って根元を揺らされただけ。

「宗ちゃん」

名前を呼べる喜び、希望を噛みしめて。

「宗ちゃんといさせてくれてありがとう。わたしを好きでいてくれて、ありがとう」

『・・・その科白は最期まで取っておけ、薫』

スマートフォン越しに包まれる甘さがくすぐったかった。

確かに見えた。最後まで宗ちゃんを愛して死ぬ、ささやかで誇らしい未来が。

掌の上に。
< 104 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop