純・情・愛・人
寛ぐためのリビングは、ベビーサークルにベビー用品専用の収納、ベビーベッド・・・と、すっかり様変わりした。ソファもダイニングセットも端に寄って、場所を明け渡している。

服も玩具もほとんどが有馬からの贈り物。お父さんと一緒に一喜おじさんが訪ねてくることもあった。純粋に初孫を慶んでくれているんだと嬉しかった。・・・宗ちゃんの『跡継ぎにする』という言葉を聴くまでは。

節分を過ぎ、週末は雪の予報が出ていた。大地が起きたら広くんにお願いして、買い物に連れて行ってもらおうか。

空にした茶碗と皿を重ね、ダイニングテーブルから立ち上がると洗い物を始める。前にお父さんがプレゼントしてくれた食器洗浄機は使ったり使わなかったり。

ご飯のあと、広くんは煙草を吸いにテラスに出るのがルーティンだ。戻ってきたら頼んでみよう。当たり前のように思ってから悩ましい気持ちが湧き上がる。

頑張れるところまで頑張って、どうしても手助けが欲しい分だけ広くんに頼るつもりでいたのに、ずいぶん甘え癖がついてしまった。

本人は『俺を好きに利用しろ』と、お礼もお詫びも受け付けてくれない。その言葉は心強いけど毒だ。すがって手放せなくなったら全てが壊れる。

「兄貴がなにを言いやがった」

側に来るまでまるで気が付かなかった。かけられた声に驚き、泡まみれのスポンジが手から転がった。

横に立った広くんの鋭い眼光に思わず視線が泳ぐ。誤魔化しのきかない不器用さが情けない。

「俺に隠せるわけねぇだろ」
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