純・情・愛・人
わたしの沈黙は肯定。

「言え。それとも吐かされてぇのか、どっちでも構わねぇよ」

喉元まで溢れているものを必死に堪える。

「親父さんにも言えねぇなら、俺しか薫子を助けてやれねぇんだよ」

そうかもしれない。
どこかが裂けて破れる音がした。

本当に卑怯だ、宗ちゃんを愛してるから苦しいのに。広くんがわたしの為ならきっと、何でも惜しまないのを確信している。

「・・・・・・大地を跡継ぎにするって。有馬に男の子が生まれても継がせないって・・・言ったの。大地には普通の人生をあげたい。それに琴音さんだって、・・・でも宗ちゃんが」

俯いたまま、絞り出す自分の声が遠い。気がする。

「相変わらず反吐が出そうなクソ兄貴だな。どこまでテメェ勝手に人形扱いしやがる」

「そ、・・・違う、宗ちゃんは」

「違わねぇよ。お前と大地が人生ねじ曲げて、満足するのは兄貴だけだろが」

怒りと侮蔑をはらんだ気配に今さら後悔した。広くんの『助ける』がもし、力尽くで、の意味だったら。駄目だ。兄弟の間に傷が残る。

「・・・今のはやっぱり忘れて。わたしと宗ちゃんのことに広くんは巻き込めな」

目も合わせられず、差し出された見えない手を払おうとした刹那、躰が折れそうなほどの力で抱き竦められた。

「兄貴の言いなりで大地を渡してみろ、俺はお前を心底赦さねぇよ」
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