純・情・愛・人
ああ。わたしを赦さない人がいる。前に立ち塞がってくれる人がいる。

思った途端、堰が切れた。ぽろぽろ涙を零し、子供みたいに嗚咽した。

宗ちゃんが生まれながらに負ったのと同じ過酷な宿命を、大地には背負わせたくない。友達をたくさん作って元気に遊んで、年頃になればアルバイトや恋愛も。平凡でも、生きることを楽しんでほしい。闇に沈んだ生き方はさせたくない。

心から願ってるのに。

広くんがいなかったらわたしは。わたしは宗ちゃんの望みを叶える覚悟を決めたかもしれない。大地を守れるのはわたしだけなのに放棄してしまったかもしれない。

安心した。ずっと怖かった。間違いを犯す自分を赦してしまいそうで・・・!

「やっと俺に泣かされやがった」

お父さんと話す時よりも柔らかい声だった。笑ったようにも聞こえた。

「分かってねぇだろ?昔はもっとよく笑う女だった。兄貴しか見えねぇで、どんどんお前じゃなくなった。薫子がテメェのために笑える人生を俺が兄貴から取り返す。嫌がっても放っとかねぇから憶えとけ」

ふたつ下の弟みたいな存在で。宗ちゃんの存在が絶対的すぎて。広くんが宗ちゃんに敵うことはないと思っていた。
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