純・情・愛・人
手が止まり、アーモンドアイとぶつかる。

お昼寝から醒めてぐずっていた大地は、広くんが鳴らす知育玩具の音にようやくご機嫌だ。動くものより音やリズムに興味がある子らしい。

「どうして」

戸惑いと驚き。無意識に非難めいた呟きが漏れる。

有馬の家とは家族ぐるみの古い付き合いで、娘同然に可愛がられたとは言え、今のわたしは宗ちゃんの愛人。立場も弁えている、二度と敷居を跨ぐつもりさえなかった。

「兄貴は清音にかこつけて大地を見せつけてぇんだよ、テメェの跡目だってな」

目を瞠り、息を呑んだ。

「・・・まだ先の話だって、だから、会ったら宗ちゃんにちゃんと聞いてもらおうって・・・っ」

「薫子が納得してねぇのも承知で、外堀から埋めてく腹だろ。泣いてすがろうが押し通すぞ。お前も分かってんじゃねぇのか」

広くんの淡々とした口調に顔色が失くなっていく。

宗ちゃんは優しい。誰より愛してくれる、だけど。琴音さんと清音ちゃんへの無関心を耳にするたび、言いようのない心許なさが滲んだ。

その容赦のない冷徹さが、わたしに向くはずはないと信じたい。

永征会の有馬宗吾に愛されたいんじゃない。

宗ちゃんのままでいて欲しい、どうか最後まで。
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