純・情・愛・人
帰る途中、朝倉君から市役所の手続きが終わったらしい連絡を受けた運転席の彼。スマートフォンを手渡されて何かを確認した横のお父さんは、わたしと広くんのどっちにともなく。

『急ぐこたねーやな、ゆっくり考えてけや。カオルが幸せならオレはいーからよ』

今も頭の中は少しも整理できてなくて。どの引き出しにどう仕舞えばいいのか、散らばったまま途方に暮れている。

わたしと広くんの結婚も形だけ。・・・本当の父親を奪っていいのか。大地に選ばせるべきなのか。

深い溜息を漏らして寝返りを打つ。疲れているはずなのに眠れそうな気がしない。もそもそと寝返りを繰り返しては、どんどん芯が冴えていく。

ホットミルクでも飲もうと思い立ち、ショールを羽織って静かに廊下に出た。広くんの部屋からは物音ひとつしない。深夜二十五時。

大地の夜泣きにそなえて暖房を切らないリビングはひっそり(ぬる)んでいて、何となくほっとした。ミルクパンで牛乳を火にかけ、沸騰させない頃合いにハチミツを落とす。

ダウンライトの仄かな灯りの下、ソファにお尻を沈めて半口また半口。四分の一ほど残し、マグカップをテーブルに置いた。

ここを出ることになるかもしれない。眼差しが歪む。宗ちゃんがくれたふたりの家で、広くんと一緒に暮らし続けるわけにはいかない。
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