純・情・愛・人
見た目はホットワイン。視線を傾げた。料理に使うことはあっても嗜まないのは知っているはずなのに。

ソファの背にもたれ、缶のプルトップに指をかけた広くんは横目で『いいから飲め』とわたしを脅す。独特の香りがそれほど強くなく、色も赤味が薄いような。おそるおそる口につけたグラスを傾ける。

広がったのは赤ワインのさらりとした渋味で、すぐに追いかけてきたフルーティな酸味とまろやかな甘み。ホットレモネード割りとでも言えばいいのか。

「・・・初めてかも」

「そうかよ」

湯上がりの水分補給と同じくらい一息にビールを流し込む彼の隣りで、少しずつ躰に染みこませていくわたし。・・・じんわり温かい。

エアコンからそよぐ風のほかは寝静まり、二人だけ。朝になればにぎやかな一日が始まる。今なら。きっかけをもらえた気がして、飲みきっていないグラスを両手で包み膝のうえに乗せた。

「・・・・・・広くん」

目は合わせないままで。

「極道をやめてどうするの・・・?」

「俺が極道(それ)しか能がねぇと思ってんだろ。兄貴とは違うんだよ」

隣りを見上げると、缶をテーブルに置いた広くんは無雑作に髪を掻き上げ、言う。

「どうってことねぇぞ?お前と大地抱えて、余裕で食ってくぐらいはな」
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