純・情・愛・人
「・・・どうして泣く」

苦しそうに聴こえた。

「どうして黙っている」

堪えて聴こえた。

「そうか、・・・広己か。言ったはずだな、俺のものに手出しをすれば容赦しない、と」

刹那。わたしを閉じ込める腕が重い鉄の鎖に変わった。何重にも巻き付いて動けない、体を締め上げる。

「そう、ちゃ」

「弟だろうと見逃すつもりはないぞ。それですべて元通りだ、薫」

待って・・・!!

一瞬で世界を闇に堕とした無慈悲な声音。見えなくても、頭の天辺からわたしを串刺しにする絶対零度の眼差し。本気で広くんを。

「おねが・・・」

止められるのはわたしだけ。命乞いでもなんでも、彼を助けられるなら・・・っっ。

「聞く気はない」

必死の懇願を振り払われたのが最後。首筋に受けた衝撃と同時に真っ暗になって。・・・記憶が途切れた。





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