純・情・愛・人
ふいに意識が戻ったとき。陽差しを感じない仄暗さに、真夜中に目が醒めたのかと少しぼんやりしていた。いつ大地を寝かしつけて、お風呂はちゃんと入ったんだっけ。

横になった肌に触れる、柔らかい羽毛と滑らかなシーツの感触。ベッドの広さ。グレーの天井、儚い光のダウンライト。

正気に返って布団をはねのけた。チガウ、自分ノ部屋ジャナイ。

ぐるりと見回して確信する。何もかも変わっていない、飾り気のないインテリアも生活感の薄さも。ここは二人の隠れ家だった、宗ちゃんのあのマンション。

時間と時間が一息に繋がる。気を失ったあいだに連れて来られた?どうして?大地は?!広くんは・・・?!

下着も付けていない素のままの姿で、脱がされた服はどこにも見当たらなかった。胸元に紅い跡が幾つか残っていたけど、それ以上はされていない。迷わずクローゼットに駆け寄る。きっと宗ちゃんの着替えが置いてあるはず。

折り戸を開くと、スーツカバーの他に、クリーニングのビニールが被ったままのシャツが何枚か吊されているのが目に飛び込んだ。袖を通し、前をボタンで止めたところで人前に晒せる格好じゃないのは百も承知だ。

ドアに鍵が付いていないのも知っている。宗ちゃんじゃない別の誰かが部屋の外で見張っているかもしれない。それでも夢中でドアハンドルに手が伸びた。
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