純・情・愛・人
肋骨(あばら)のヒビなんざ勝手に治る、どうってことねぇよ』

「よかった・・・」

声に力が戻っている。宗ちゃんは本気で広くんを赦さないつもりじゃなかった。信じたかった。

『それよりお前、一人でコソコソ泣いてたんじゃねぇのか』

少し湿った鼻声だったのをやっぱり悟られてしまったらしい。

「うん・・・。ちょっと泣きすぎたかも」

『見えるとこで堂々と泣け。俺の前で我慢してみろ、次は死ぬほど泣かすまで逃がさねぇぞ」

目を細め不敵に見下ろす顔がそこに在るよう。

『薫子が捨てられねぇモンも全部、俺のだろが。さっさとよこせ』

いつも素っ気ない。だけど心が震える。素直に届く。

持て余しているものをさらけ出して弱音を吐いたら。広くんは優しくあやして慰めてはくれないだろう。

『へたれてんじゃねぇよ』って遠慮なく叱り飛ばしながら、落ちそうな荷物を横取りして、空いた手を引いてくれる。わたしと分け合おうとしてくれる。

「・・・重かったらごめんね」

『誰に言ってる。俺をもっと買い被れバーカ』

スマートフォンの向こう側から鼻先で笑われた気配。

『コンビニで適当に朝メシ買ったからな。おとなしく待ってろ、五分で着く』

『着かねーよ!』

朝倉君の呆れ声が被って聞こえ、通話は一方的に切れた。二人のやり取りが勝手に浮かんで思わず一人笑い。

五分は無理でも、もうじき帰ってくる。広くんのいる日常が始まる。宗ちゃんのいない日常が始まる。
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