純・情・愛・人
耳から離したスマートフォンをカウンターに置くと、エプロンを付けて冷蔵庫の扉を開く。待つ間に大地の好きなバナナヨーグルトスムージーと、広くんにはキゥイとバナナの甘くないスムージーを作ろう。

肋骨のひびが治るまで広くんは絶対安静、手伝われないようにしっかりしなくちゃ。感傷にひたってる暇なんてない。そのほうがいい。

夕飯はお父さんを誘って。黙ってわたしと宗ちゃんをずっと見守ってくれた感謝と、(ここ)にある広くんへの気持ちを正直に伝えよう。

もう娘の心配はいらないから、これからは自分のために人生を楽しんでほしい。好きな釣り旅行に飛び回ったり、もしいつか、お母さんをしのぐ誰かと出逢えたら堂々と娘に紹介してね。お父さんの目は確かだ・・・って、お母さんはお墓の下で得意げに笑うかな。

材料をそろえてミキサーを準備する。冷凍したバナナは包丁でひと口大に。

二度となくなった。宗ちゃんのために料理をすることも、待つことも。だけどわたしは続いていく。

宗ちゃんを幸せにできなかった後悔は、一生治らないカサブタの下で膿み続ける。

後悔という名前で愛し続ける。

宗ちゃんがわたしを憎んでも忘れても。

何ひとつ捨てないで、連れて、

陽だまりに咲き続けよう。

染み込んだ花びらの色を淡く染め替えながら

太陽に向かって。




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