純・情・愛・人
可愛い息子と娘に恵まれ、三人目、広くんとの子供も授かれるならと思っていた。・・・彼は愛情を三等分に分ける自信がないと本心を隠さなかった。

『テメェの子は贔屓目になっちまうしな』

叔父として血の繋がりはある。十分だと意思は固かった。

『腕も二本きりで、ちょうどだろが』

不敵に笑った裏側で、どれだけの思いをねじ伏せたんだろう。広くんの愛の深さに、大きさに泣いた。広くんを愛せて幸せだと初めて真っ直ぐに伝えられた。

いつも宗ちゃんが心の端でわたしを見ていた。どこか後ろめたかった。重しが消えたのはその瞬間(とき)だった。

「お前は飲まねぇの?」

「うーん、どうしようかな」

大地にウインナーや唐揚げを取り分ける手元に集中して、返事はうわの空。

「こっち向け」

言われて隣りを振り仰いだ途端、頭の後ろを押さえ込まれ、いきなりビール味の炭酸が口の中に広がった。

「まま、チュウしてるー」

娘のあどけない実況中継に恥ずかしさが込み上げ、ドヤ顔の広くんを恨みがましく見上げる。

「子供達の前は我慢してって約束したのに」

「できねぇから、したんだよ」

わざと耳許で甘くささやく意地悪。

「ないしょばなし、きんしー!」

ママを取られてヤキモチを妬く大地を、広くんが悪そうに言いくるめるのもいつもの光景。反抗期が来ても広くんには敵いそうにないかな。

ありふれた未来を描ける柔らかなひととき。その片隅で宗ちゃんを思うのだ。
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