純・情・愛・人
有馬に念願の男の子が誕生したのは、日奈が生まれて半年後くらいだ。

跡取りができたことで岸川組との縁もいっそう固くなり、一喜おじさんの片腕として宗ちゃんが永征会を押し上げている。・・・広くんやお父さんが口にしないことを教えてくれるのは、いつも朝倉君だった。

琴音さんも花蓮さんに倣って姐さんらしくなったと、見守るようなお兄さん顔で。宗ちゃんの隣りで凛と咲き誇る、一輪の花が瞼の裏に浮かんで消えた。

宗ちゃんの中にわたしも大地もいなくなった。日奈が自分の子だと知ることもない。別れてすぐ広くんの子を妊娠したと聞けば、地の底までわたしを蔑んだだろう。

子供達が陽の当たる場所で自由に生きられれば、どう思われても。独りじゃない、厳しくて優しい広くんが一緒に前に進んでくれる。折れそうになっても助けてくれる。

後悔の海に沈まないで笑ってこられた。幸せという言葉を噛みしめるたび思う。

宗ちゃんは愛せているかな。
空が青く見えているかな。
射す光は温かいのを憶えているかな。
わたしがあげたかったものを、もらえたかな。

そうだといい。心から願わずにいられない。

たとえどんな非道に生きても。夫として父親として、その背中を誇れる(ひと)でいてほしい。叶うなら、わたしが愛したままの宗ちゃんでいてほしい。どうか。
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