純・情・愛・人
花蓮さんの高級クラブで熟練の接待を心得ていただけあって、夫の元愛人を前に感情をおくびにも出さなかった。笑顔を崩さず、空気を和ませ続けた。

会計を別々で済ませ表に出ると、朝倉君の運転でファミリーレストランから移動した。どうやってかは訊かなかったけど、自転車は家に届けておいてくれるそうだ。

天気が良いから・・・と彼女がリクエストした場所は、街中のオアシスのような公園だった。森に囲まれ、広場で遊ぶ子供もいれば、東屋で囲碁に興じているひと、楽器を練習している姿もあちこちで、奏でる音色が風に乗って渡っていた。

「座りましょうか」

池を見渡せる木陰で、オレンジ色のサブリナパンツにミュールの涼し気な彼女に促され、一人分を空けてベンチに腰かけたわたし。

シャツワンピースの足許はスニーカーで、最初から言ってくれれば服の選びようもあったのに。朝倉君が恨めしい。

「なんか飲むモン買ってくるわー」

二人きりになり、束の間の沈黙を破った琴音さんがおもむろに口を開いた。

「・・・ご存じなかったと思いますけど、宗吾さんが収監されました」

「え・・・?」

「詳しくは話せません。・・・実刑判決が出ましたので、しばらく戻らないことだけお伝えしておきますね」

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