純・情・愛・人
訳がわからず顔を上げた先に、A5サイズほどの茶封筒が差し出された。茫然としたわたしに業を煮やしたのか、膝の上に押し付け、琴音さんが立ち上がった。

「用はそれだけだから。本当にあなたの顔なんて二度と見たくない。身の程知らずのカタギの女が、宗吾さんをあきらめたことは褒めてもいいわ。思い上がって広己に見限られたら笑ってあげる」

最後は仮面を剥がして本音をぶつけ、エルメスのバーキンを片手に毅然と去って行くのを、ただ見送るしかできない。追えない。

残された封筒の中身はわたしのものだと彼女は言った。惑う。宗ちゃんに何かを預けた憶えもなかった。

入っていたのは、わたし名義の通帳とキャッシュカード。すぐに思い当たった。大地が生まれるとき生活費の代わりに渡され、お父さんに頼んで返してあったものだ。

おずおずと通帳をめくる指が止まる。別れてからも、日奈を広くんの子だと偽ってからも毎月、決まった金額が振り込まれ続けている、ずっと。十五年近くも。

「・・・うそ・・・」

記帳は半年前で途切れていた。残高にならぶ数字だけでも息を忘れる。どうして。だって。宗ちゃんにとってわたしは、意味も価値もない他人になったんじゃ・・・!

それからもう一つ、平たい木の小箱。開こうと力を込めた指先が頼りなく震えた。
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