純・情・愛・人
重さは感じなかった。ふたを持ち上げると、中に黒いビロードの巾着が。口を広げ、掌の上に滑り落ちてきたものが目に止まった瞬間、顔が大きく歪んだ。

リングをふたつ通したプラチナ色のチェーンネックレス。銀のような金のような繊細な色味の、サイズ違いのおそろいの指輪。ひと回り小ぶりな方には、弧を描く木目模様に沿ってダイヤが三つ、内側に刻まれた“S to K”の刻印。

「宗、ちゃ・・・」

長いあいだ口にしなかった名前が喉の奥で掠れた。信じてなかった。この世界から消えてなくなったと思っていた。

捨てずにいてくれた。ふたつ離さずにいてくれた。ああ。わたしの宗ちゃんが残ってた・・・!

涙が溢れた。わかっている、これは宗ちゃんの心を持たない抜け殻だってことも。

琴音さんもそう信じたから正面から来たんだろう。後を託された妻として、わたしに繋がる過去(もの)を清算するために。

指輪を握りしめた甲で何度も何度も目尻を拭った。拭っても拭っても、視界がぼやけた。

自由を失い、罪を償うための場所で今、宗ちゃんはなにを思ってるの。どうしてこんな大事そうに指輪を仕舞っておいたの・・・?

最後の夜、わたしは宗ちゃんを責めて。宗ちゃんはわたしに用はないと冷たく背を向けた。

自分だけが憶えていればいいと思った。ふたりきりで過ごした誕生日も、早かったり遅かったりしたクリスマスも、指輪に誓い合ったフラワーパークのあの夕暮れも。
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